第二章・心臓に秘めた想い

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 夕回診を終えて医局に戻る道すがら、藤宮先生と遭遇した。 「あ、藤宮先生、お疲れ様です」 「……お疲れ様です」  藤宮先生はちらりと私を一瞥して、すぐに視線を外した。 「頼人くん、体調良好ですね。この調子なら、オペも予定通り……」 「そのことで、お話があります」 「?」  肩を並べて歩きながら頼人くんの経過を伝えていると、藤宮先生は私の話を遮るように口を開いた。 「今後、音無先生は彼の治療には関わらなくていいです」 「え……」  突然被せるように言われ、私は困惑する。その声はぶっきらぼうで、いつにも増して冷たい。 「……どうしてですか?」 (私、なにかミスした?)  頼人くんは少し不安がっていたけど、最後は機嫌が良かったし、その後の検査も速やかに行えた。  記憶の限りミスした覚えはないし、思い当たる節がない。 「彼は大した症例ではありませんし。音無先生はオペの助手だけで十分でしょう」  やはり、藤宮先生は機嫌が悪い。 「……でも、患者対応については佐伯先生から私もサポートに入るようにって……」 「でも?」  ぐ、と言葉に詰まる。口答え禁止、という約束だ。 「……すみません」 「今後、彼の病室へ行くのは極力控えるように」 (なぜ……) 「……分かりました」   今後、藤宮先生の指示をすべて聞くと言ってしまった手前、口答えはできない。  私は不満を抱きながらも、渋々頷くのだった。  
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