第一章・心臓破裂、何秒前?

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 私はひとまず、これから特にお世話になるであろう循環器内科(じゅんかんきないか)ER(イーアール)へ挨拶に行った。  医局に戻ってくると佐伯先生と入江先生は不在で、藤宮先生しかいなかった。  藤宮先生の隣に座り、思い切って私は椅子ごと彼に向き合う。 「藤宮先生。実は私、以前から藤宮先生を存じ上げていて……」 「これ」 「……?」  おもむろに、藤宮先生は私に分厚いファイルを数冊差し出した。 「わっ!?」  反射的に受け取ると、ずっしりとした重みを腕に感じ、慌てて手に力を込める。 「俺のスケジュールと、オペを控えてる患者のカルテです。基本的に俺が執刀するオペにはすべて助手として入ってもらうので、担当するオペについてはしっかり勉強しておくように。それから俺がERに呼ばれたときは必ず同行。ERからコンサル受けた患者の担当は音無先生にメインでしてもらいます。口答え禁止、弱音禁止、質問も面倒なので禁止、勉強不足を感じたら即刻捨てますので」 (見事な早口言葉だ……)  私は呆然と藤宮先生を見つめる。 「了解しました。……ですが……このスケジュールですと、帰るどころか寝る暇もないような……?」  すると、藤宮先生は驚くほど冷たい目で私を見た。 「へぇ?」  背筋が凍った。 「寝る気でいるとは、大した自信ですね」  私の目の前には、憧れの人ではなくただの鬼がいた。 「……失礼しました」 (パワハラ上等、スパルタイケメン……憧れの人は鬼でした……ハイ、頑張ります)  こうして私の後期研修生活は、少し想像とは違った形で幕を開けたのだった。  
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