第四章・名無しの女神は死を願う

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 それからは慌ただしかった。  ご両親を呼び出し、美矢ちゃんの代わりに藤宮先生から真実を話した。  そして、今度は二人から最近の様子を何気なく聞き出した。その結果――父親である慎也さんは涙を流しながらも納得してくれた。  しかし、小百合さんは、 「先生、なにを言っているの? 真矢は生きているわ」  なにを言っても、私たちの説明を理解することはなかった。  慎也さんの話によると、小百合さんは自身も胡桃坂音楽学校を目指していたらしく、その夢を叶えた真矢ちゃんを誇りに思っていた。  だからこそ、小百合さんの脳は真矢ちゃんの死を受け入れられなかったのだ。  真矢ちゃんと美矢ちゃん、どちらのことも愛していたはずなのに、心の奥深くでは、小百合さんは二人に優劣をつけてしまっていたという結果だった。  小百合さんには脳外での検査と精神科の受診を改めて話し、了承してもらった。  脳外での検査の結果、脳に異常は見られなかったものの、精神科ではやはりノイローゼ気味であることが分かって薬を処方された。    それから、二週間。  小百合さんはまだ、美矢ちゃんを認識できないままでいる。  無理もない。  凄惨な事故から二ヶ月。  ようやく美矢ちゃんの死を受け入れて前を向き始めたところで、実は双子の娘が入れ替わっていて、死んだのは美矢ちゃんではなく真矢ちゃんだったなんて。  他人の私でさえ驚いたのだ。当事者たちの心の負担は相当なものだろう。  精神科の待合室の長椅子に座る小百合さんは、ぼんやりと足元を見つめていた。隣には、慎也さんが寄り添っている。  私と藤宮先生は、小百合さんが診察室に入ると、慎也さんと話をした。 「……美矢ちゃんはこの二ヶ月、自分は死んだことにされて生きてきました。そして……その負担に耐えられなくて、今回このような自殺未遂という行動に出てしまった」 「……はい。すべて私の責任です」  慎也さんは項垂れている。 「あの……真矢ちゃんは亡くなってしまったけれど、美矢ちゃんは生きています。美矢ちゃんも大事なあなたの娘さんですよね。どうか、美矢ちゃんのことをちゃんと見て、向き合ってもらえませんか」 「そんなこと……言われなくても分かっています!」  小百合さんが声を上げる。 「音無先生、それ以上は」  藤宮先生が静止した。怒られてしまった。 「……すみません」  今無理強いしても逆効果だと、藤宮先生に視線で告げられる。  けれど、頭では分かっていてもやるせない。 (結局、美矢ちゃんのためになにもできないんだな、私は……)  二人と別れると、私は落胆を隠せないままICUへ向かった。  
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