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ごきげんよう。
どうしたのですか、教室に戻ってきたりして。
もしかして、私と話がしたかったのですか?
ふふっ。でしたら、こんな言葉を知っていますか? 桜の樹の下には死体が埋まっている、と。
知っていますよね? 梶井基次郎(かじい もとじろう)の短編小説の最初の一文です。
桜の花があそこまで綺麗なのは人の血を吸っているからだとかそんな話なんです
この言実ヶ丘女学院の近くにある公園の桜の樹の下を掘り返したら……という事件があったのは知っていますか?
知りませんでしたか。でしたら、説明しましょう。
これは数年前のとあるお花見の季節のお話です。
お花見の季節、その公園にあるソメイヨシノの下で宴会を開いていた人達がいたそうです
お花見というのはあくまでも名目で、皆、お酒が飲みたかったそうで、桜などは大して見ずにお酒ばかり飲んでいたそうです
『まずい……まずい……』
そうして、みんなが酔っ払った頃に、そんな声が聞こえてきたそうです。
花見の最中に空気が読めない事を言う奴がいるんだな、と皆、そう思いながらも聞き流していたそうです。
ですが、ずっとそんな声が聞こえてくるものだから我慢できなくなった人がでてきてしまいました。。
『不味い不味い言うな! 酒が本当に不味くなるじゃねえか! 誰だ、言っているのは』
そう怒鳴ったそうです。しかし、皆、首を横に振るばかりでした。
『何が不味いんだよ、言ってみろ!』
また怒鳴ると、その声に応えるようにこんな声が聞こえてきたそうです。
『人がまずい……人がまずい……』
こんな声がソメイヨシノの方から聞こえてきたそうです。
その一言で、皆、酔いが醒めて悲鳴を上げながら慌ててその場から逃げ出したそうです。
ですが、酔いが醒めた頃、何人かの人達がそのソメイヨシノの所に戻ってきて相談をし始めました。
「このソメイヨシノの樹の下には死体が埋まっているのか?」
「そんなワケあるか。ただの空耳だったんだよ。集団幻聴だったんだよ」
「なら、掘って確かめてみるか? 本当かどうかを」
公園の管理者に連絡を取り、立ち会ってもらって、ソメイヨシノの根の辺りを掘り起こし始めました。ですが、死体は出て来ませんでした。
ふふっ、何も出てこなかったワケじゃないんですよ。
『死体は』ですからね。
出て来てしまったのです。
コトリバコが……
ふふっ、冗談です、冗談。
出て来たのは、コトリバコではなく、骨壺だったんです。
骨壺の中には、水と泥が詰まっていて、中に遺灰が入っていたかどうかは調べようがなかったという話です。
当然の事ながら、その骨壺が誰の物かは分かるはずがありません。
そうなると疑問が残りますよね?
あの声の主は誰だったのでしょうね?
遺灰からでしょうか?
それとも、骨壺が根元に埋められていたソメイヨシノでしょうか?
ふふっ、どちらなのでしょうね。
これは噂なのですが、骨壺が掘り出された後も、そのソメイヨシノの付近では声が聞こえるらしいです。
『人がまずい……人がまずい……』と。
あのソメイヨシノの根元には、誰かの遺灰がまだ残っているからなのでしょうか?
いえ、もしかしたら、もっと深く掘れば、本当に死体が出て来るからなのでしょうか?
それとも、ただの噂なのでしょうか?
私はそのいずれでもないと思っています。
おそらくは、あのソメイヨシノの根元に埋まっているのは、コトリ……
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