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「あなた何考えてんの!? こんな小さな娘に何言ってんのよ!? 再婚は大人の事情でしょっ!? 自分の都合だけで判断して子供を傷つけないでよ!」 「仕方ないだろ!? オレにはもう次の子供がいるんだぞ!」 言ってから、しまった、とばかりに哲也は七菜を見る。 「パパ……」 泣きそうに口をキュッと結んで、七菜は莉子の元へと駆け寄った。そんな我が子の頭を撫でて引き寄せる。 「信じられない。はっきり言って不貞だったんでしょ? それをしておきながら調停離婚で更にこの仕打ち? いい加減キレそうよ! 家のためって、結局あなたは親の事しか考えてないんじゃない!」 言いたくなかったのに、こんなタイミングで全てが土砂崩れのように飛び出してくる。気持ちが止めようもなくて、莉子は涙が滲んだ。 「もう二度と会わないし、会わせないわ!」 「ああ! こっちこそ、それを望んでたよ! お前は結婚して嫁に入っても自分の事ばかりだったよな! もう、うんざりなんだよ! うちは……、」 「哲也さん」 志乃がいつの間にか玄関にまで出てきていた。静かに立って、落ち着いたトーンで莉子を見据える。 「もうこれっきりでお願いします。きちんと養育費は支払いますので。この子のためにも」 そう言って、お腹に手を当てる女の姿。 うそ。 うそ、うそ。 なんでこの人がいるの? 莉子の中で、次々と出て来る筈の言葉達が地に落ちていく。 「そう。そう……もう、そうなのね。七菜、靴を履きなさい」 黙って七菜は言われた通りにした。バタバタと奥から篤子が出てきたが、もう顔も見たくない。 「これっきりという事で。さよなら」 娘の手を取って、玄関を出る。 「七菜……っ!」 背中に姑の声が響いたが振り返らなかった。この家は最低だ。七菜の気持ちを考えずに離婚だけで飽き足らず、また傷つけてしまった。自分も最低だ。あの時、きちんと断って仕事を休めばこんな事にはならなかった。重い責め苦が莉子を襲う。 「ママ……」 ダメだ。悲しんでなんていられない。 この子にだけは涙は見せない。 無言で歩き続ける。 二人の姿を薄暗い空が飲み込んでいった。
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