1194人が本棚に入れています
本棚に追加
「あなた何考えてんの!? こんな小さな娘に何言ってんのよ!? 再婚は大人の事情でしょっ!? 自分の都合だけで判断して子供を傷つけないでよ!」
「仕方ないだろ!? オレにはもう次の子供がいるんだぞ!」
言ってから、しまった、とばかりに哲也は七菜を見る。
「パパ……」
泣きそうに口をキュッと結んで、七菜は莉子の元へと駆け寄った。そんな我が子の頭を撫でて引き寄せる。
「信じられない。はっきり言って不貞だったんでしょ? それをしておきながら調停離婚で更にこの仕打ち? いい加減キレそうよ! 家のためって、結局あなたは親の事しか考えてないんじゃない!」
言いたくなかったのに、こんなタイミングで全てが土砂崩れのように飛び出してくる。気持ちが止めようもなくて、莉子は涙が滲んだ。
「もう二度と会わないし、会わせないわ!」
「ああ! こっちこそ、それを望んでたよ! お前は結婚して嫁に入っても自分の事ばかりだったよな! もう、うんざりなんだよ! うちは……、」
「哲也さん」
志乃がいつの間にか玄関にまで出てきていた。静かに立って、落ち着いたトーンで莉子を見据える。
「もうこれっきりでお願いします。きちんと養育費は支払いますので。この子のためにも」
そう言って、お腹に手を当てる女の姿。
うそ。
うそ、うそ。
なんでこの人がいるの?
莉子の中で、次々と出て来る筈の言葉達が地に落ちていく。
「そう。そう……もう、そうなのね。七菜、靴を履きなさい」
黙って七菜は言われた通りにした。バタバタと奥から篤子が出てきたが、もう顔も見たくない。
「これっきりという事で。さよなら」
娘の手を取って、玄関を出る。
「七菜……っ!」
背中に姑の声が響いたが振り返らなかった。この家は最低だ。七菜の気持ちを考えずに離婚だけで飽き足らず、また傷つけてしまった。自分も最低だ。あの時、きちんと断って仕事を休めばこんな事にはならなかった。重い責め苦が莉子を襲う。
「ママ……」
ダメだ。悲しんでなんていられない。
この子にだけは涙は見せない。
無言で歩き続ける。
二人の姿を薄暗い空が飲み込んでいった。
最初のコメントを投稿しよう!