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もしも全てをやり直せたら、次は絶対に大切にする。七菜も莉子も守る。これ以上はないというくらい頑張ってみせる。莉子がそうしてもいいと言ってくれるなら。 「いやよ」 ところが、莉子は即答した。 「絶対にそれはないわ。いや」 いや? いやだって? 哲也の中でザラリと音を立てて崩れ去る希望と自尊心。その代わりに、救急搬送される志乃が目に浮かんだ。お腹の子供、そして、恭太の姿が哲也の頭の中でぐるぐると渦巻き、彼はふらりと座り込んだ。 「私はあなたと別れて良かったと思ってる」 「り、莉子……」 意を決して、口を開く莉子。 「……哲也に何があったのかは知らないけど、私はあの家を出られて幸せなの……。確かに私も足りないところがあったなって思ってる……。お義母さんみたいになれなくて、毎日申し訳ないってどこかで思ってたの。でも、今は解放されて、本当の自分でいられるの。幸せなの」 莉子の着ているシャツについている小さなスパンコールが、外灯に照らされてキラリと光った。まるで魚の鱗のように。 「いま、幸せなのか……?」 「うん。すごく」 「すごく?」 「うん。とっても」 狭い水槽から大海へ出た魚は、嬉しそうに笑った。 「……私の生き方が正解じゃないのかもしれない。でもね、良かったよ。あの家は、同じ和菓子屋さんをやっている女性が来たほうが良いわよね。ほら、私は鈍臭いってよくお義母さんに叱られてたし」 苦笑しながら莉子は下を見た。 「莉子……戻ってきて欲しいんだ……」 「……」 「なあ、俺は七菜の父親だろ? とても反省してる。新しい人とやっていくって言わなきゃこの先もっと七菜を傷つけると思ったんだ。だから言ったんだ」 「それ……、それであの子がどれほど傷ついたと思う?」 「……なにか言ってたのか?」 「もう会えないって言われて、あの子がどれほど傷ついたか分かる?」 「……すまない。きちんと償うから。会って謝りたい」 「謝りたいですって?」 瞬間、莉子の顔は、目を吊り上がらせた。まるで鬼のような形相になり、大きく息を吸い込む。 「すまない、なんて言葉で片付けられる事じゃないよ! あの子の事は守りたいと思ってた。なのに勝手に再婚をカミングアウトして! 私に相談もなしに! そして突然ここに来てなんなの!?」 「り、莉子……」
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