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辰樹が用意してくれた部屋は最適だった。 12階のハイエリアで、キングサイズのベッドがひとつとシンプルなデザインの机。その上には冷えたシャンパンが銀のワインクーラーに入っていた。 シャワールームはガラス張りでアメニティもブランド物だ。 「避難経路はこちらからご確認下さい。あと、オートロックとなっておりますので……」 天沢は、莉子が説明をしている間、大きな窓からの眺望から目が離せないでいた。外国生活が長いと日本の景色も久しぶりに思える。原色ではない空の色が眩しい。 「ではごゆっくりお寛ぎくださいませ」 丁寧にお辞儀をする莉子に、天沢は微笑んだ。 「ありがとう。このあたりでご飯が美味い店ってあるかな?」 暫く考える様子を見せる莉子。 「……それは洋食ですか? 和食ですか?」 「んー、久しぶりの日本だから和食がいいなぁ。あるかな?」 「そうですね……。ここから歩いて15分ほどのところに糸屋さんという料亭がございます。そちらでしたら日本酒も豊富ですし、おすすめです」 「ほんと? なら行ってみようかな。ありがとう」 「あ、でも」 出ていこうとして、莉子が足を止める。 「もしもゆっくりしたいと思われるのでしたら……、金井料亭さんは最高かもしれません。少しお高いですけど……」 「へぇ、そうなんだ? 糸屋さんとは何が違うの?」 「魚の刺身の種類も豊富ですし……生牡蠣とかもありますし……、トロさわらとかも季節によってはあるようですし……」 「へえ。そんなの初めて聞いたなあ。サワラのトロなの?」 「ええ。鳥羽の、答志島で捕れるらしいんですけど、扱っているお店が少ないみたいで。でも脂のノリがすごく良くて美味しいとお客様から聞いた事があります」 天沢は嬉しくなった。 「そうなんだ? じゃあ、是非食べてみたいな。今夜行ってみようかな」 「季節物なので、ある時とない時があるようなので、こちらで確認致しましょうか? ご予約もいたしますが?」 「そうしてくれ。ぜひ頼むよ」 莉子との会話で一気に気分が軽くなる。辰樹の言う通り、少し現実から離れてゆっくりしてみるのもいいかもしれない。
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