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莉子がロビーに戻って手際よくコンシェルジュに伝えて予約をとると、涼子が近寄って来るのが見えた。
「ね、さっきの案内してたゲストって見たことある顔じゃない? 莉子知ってる?」
「うーん? 分からなかったけど。そうなの? 何してる人?」
二人の間にコンシェルジュの桐生 梢が入る。
「あの人、ピアニストよ。日曜日のテレビに出てるの見たことあるわ」
梢は黒髪を綺麗に後ろでまとめてお団子にしている。小顔でまるでマネキンのように肌が白くて美しい。どこかのハーフだと聞いた事があった。
「そうなんだ? なんだかスラッとしていてカッコよかったもんね」
「涼子ってばー」
「お、見て! ゲスト到着!」
「あー、いっぱいご到着」
ドアマンから団体客の到着だと知らせを受けて莉子は駆けつける。わらわらとバスから人がエントランスにたくさん降りているのが見えた。これからあれをすべてお部屋まで誘導しなくてはならない。そして荷物も。
「でぇっかい荷物だねー。田中っちにヘルプ頼むわ。どこ行ったんだろ」
「さっき、いつものプラチナゲストに呼ばれてそれから姿消してるよ」
「えー、またお部屋に軟禁されてるのかしら」
田中 流星君は大学生のアルバイトだ。
人の良さそうな顔をしているからか、少し癖のあるゲストに絡まれやすい。
例えば、どうして? なんで? と突っかかる老夫婦。または、ちょいワル風の男性客にパシリとして使われた事もある。
今回のプラチナゲストは音羽さんといって、昔からの常連客だ。自分の薬を毎度大量に持ってきては、ひとつずつ梱包させるのを手伝わせるのが目下の趣味だ。その間に聞かされる昔話が長くて敵わない。
「あの子も温和な子だよねー」
「ほんと。毎度だもんね。昼間のルームサービス下げるヘルプにも呼ばれてたよ」
「嫌な顔ひとつしないのが凄い」
莉子と涼子は小声で言い合いながら外国人団体客をお迎えした。
「Wow…! Nice hotel!」
一人の男性がホテルのロビーを見て弾んだ声を上げる。
「Thank you. Mr……」
莉子は近寄って話しかけた。
「Call me Flank! oh...... I Want to drink right away! 」
酒が飲みたいと長旅の疲れを訴える様子を見て莉子は上の階を指さしてこう言った。
「There is a Good shop on the Upper floor」
ニコっと笑いながらゲストを中へ入れたのだった。
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