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***** 「あらあ、七菜ちゃん! ばあばは待ってたよお、暑い中よく来たねえ!」 姑の変わらぬ白い作務衣に三角巾。しかし、溌剌としたその笑みは娘だけに向けられたもので、自分へ向けられた事など一度もないものだ。 「じゃあ、私は一旦帰ります。五時にはお迎えに来ますので」 感情を出さず、淡々と告げる。 「莉子(りこ)さん、お迎えはもうちょっと遅くてもいいんだよ。七菜と一緒に晩ご飯も食べたいから」 いやだ。 名前を呼ばれるだけでげんなりする。 「いえ、きちんと面会時間は決められているので」 「あら、そんなもんくらいいいじゃない」  こう言うところが困るのだ。この姑は。 「お、七菜、来たのか」  玄関からひょっこり前の旦那、哲也が顔を出した。相変わらず色白でひょろりとしている。この人は、今でも母親の機嫌をとりながら生きているのだろうか。 「七菜、よく来たなあ」  太った舅の登場だ。しかし、その後ろに知らない女性が顔を出した。 「こんにちは」 始めてみる顔だ。 「……こんにちは」  誰だろう? 新しく雇った人? 少しぽっちゃりとしていて、膨らみのあるワンピースを着ている。まるでお多福さんのような人。 彼女は満面の笑みをこちらに向けている。その笑顔に戸惑う自分がいた。 「こちら鷹村 志乃さん。いまオレがお付き合いしてる女性だよ」 「え……っ」 哲也は娘の前で悪びれもなく言った。 「七菜〜、今日は一緒に晩飯も食べようなあ」 「いえ、五時には迎えに来ますので」 固い声音で答える。 この女性は今日一日七菜と一緒にいるの? 冗談はやめて。 「いや、七時くらいでいいよ」 「きちんと決められた時間を厳守して下さい! 五時で」 イラッとする。この空間が苦手なのだ。クソもミソも一緒。いい事と悪い事の分別がついていない家族の関係。 「あの……、私がおいとましますので……」 困ったように志乃と名乗った女性が眉根を下げて言うと、途端に姑が声を上げた。 「やあねぇ! そんなの気を使わなくていいのよ! みんなで食べた方が美味しいんだから! ねえ!」 「それは勘弁して下さい。娘の事も考えてください。鷹村さん、すみませんが今日は面会の日なのでご配慮ください」 志乃は無言で頷いた。 「……五時に迎えにきます。では。七菜、いい子でね」 娘は知らない志乃の顔をじっと見つめていた。 ごめんね。この人はすぐにいなくなるからね。 後できちんとパパと話をつけるから。仕事は穴を開けるわけにはいかない。心苦しいが、莉子は心の中でそう誓う。
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