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「このハイエース、うちのなの。こんなボロいラブホに停められて……。泣けてきちゃって。で、誰に相談したらいいか分かんなくって」
そう言って出てきたのはあらゆる角度から撮った車の写真。
「決定的な証拠は私には無理だったからさ」
「うんうん」
莉子は必死になって聞いた。涼子は相変わらずパスタに手をつけている。聞いているんだろうか。
「探偵さんを雇ったのよね」
「えっ!!」
「……ほー、智美らしいわー……」
そこでやっと涼子の声がする。
「探偵さんて、ホントにいるんだ? すご。で、撮れたの?」
「うん」
智美は違う写真を見せてくれた。スマホには若い女の人がバッチリ写っていた。
「佐藤 美桜。23歳。介護施設で働いてるみたい。毎週金曜日か木曜日になると旦那と会ってるの。家族構成は母親と二人暮し」
「まじかー」
「浮気が怖いっていうより智美が怖いのよ」
涼子はそう言ってワインを飲み干した。
「でね、離婚しようとすると色々大変でさ。家のローンはもう旦那に任せちゃうとして、車の名義変更とかさ。子供も小さいし養育費払ってもらえるのかなって……全部が不安で。一括で払ってもらおうと思ってるの。探偵さんと行政書士さんに相談して、離婚協議書にそう記載して貰おうって思ってて」
智美は泣きそうになっていた顔をいつの間にか元に戻していた。
「い、養育費一括って……、そんなの出来るの?」
「うん。なんかね、探偵さんが言うには、ほとんどの男の人が払わなくなるんだって。それを支払わせようとして女の人は疲弊して諦めていくって。だから一括で」
「いくらになるのよ……?」
「ヤーさんだわー。やっぱ智美は」
涼子の笑いを含んだ声。
「まあ、最低1000万近くかな。慰謝料とは別に」
「い、い、い、1000万!!」
「でもさ、その前に彼の本音を聞き出してみたいの」
「ん?」
「彼ときちんと話をしたいんだけど、たまにキレちゃう人で……出来たら二人に立ち会ってくれないかなあって」
智美はそこまで喋ると、ワインをもう一本追加した。莉子はすぐには返事ができず、涼子が尋ねた。
「何を話したいの?」
「どうして浮気したのかを」
「それって話して解決するの?」
「んー、それはわかんない。でも別れるにしてもさ、このままじゃ嫌なんだよね」
そこに頼んだ温野菜とローストビーフが運ばれてくる。それらをお皿に盛りながら莉子は疑問に思った。本当に彼の本心を聞きたいのだろうか?
「……相手の女に慰謝料請求するの?」
涼子が冷静な声で問いかける。
「そうね……迷ってる」
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