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思ってもみない話の内容だった。
智美が好きな人と一緒になって、まさか浮気されてるだなんて。しかも凄くしっかりと考えていて、行政書士さんにお願いしたりしている。あのおっとりさんだった智美が。
「でね、うちの家に来てくれる可能な日がないかなって思ったの。無理なお願いをしている事は重々承知してる。おふたりとも忙しいと思うんだけど、ごめん、お願いします!」
丁寧に頭を下げられてしまった。
「そりゃぁ……、別にいいけど」
返事をしながら苦い気持ちになった。そして頭の中で必死に考える。もしもそうなったら、その場は……智美、旦那さん、涼子、私……それから?
「それって旦那さんは誰か連れてくる?」
「どうだろ? わかんない」
「なんか……みんなで責めてる感じになっちゃうね」
莉子は苦笑いを堪えられなかった。こういう時、男の人ってどんな気持ちになるんだろ?
「その話をしたあとも旦那さんと離婚が成立するまでは同居するつもり?」
涼子はチーズをつまむ。
「うん。子供を一番に考えたいから……」
旦那さん顔を、そのあとも見なきゃいけないの?
「気まずくない? 家を出ないの?」
莉子がそう言うと智美はバンっとテーブルを叩いた。びっくりして彼女を見る。
「どうして私が出ていかなきゃいけないの!? 子供だっているのにっ!」
「ちょ、落ち着いてよ。私はただ智美が心配なだけだよ」
「……私は出ていかない。あそこで築いた人間関係もあるし。旦那の隼人が出ていくべき」
智美はぐっとワインをあおったのだった。
莉子は驚嘆の表情を隠せなかった。
学生の時には見せた事のない激高ぶりだ。こんな子じゃなかった彼女は、余程今の状況に追い詰められているんだな。
莉子は智美の気持ちを考えると、立ち会いを断ることが出来なかったのだった。
その日はまた週末の約束をして、お互いに別れ、そしてそのまま七菜のお迎えへ実家に向かう。
実家では七菜は可愛いらしく、とても大切にされている。今回も大好きなフルーツやお菓子を沢山買ってもらって、七菜はご機嫌で待っていた。
「ありがとう、お母さん」
「うん。七菜ちゃんいい子にしてたわよー」
母は嬉しそうにエプロンを外すと、莉子にお茶をいれてくれる。
「ばあばとお絵描きして、お勉強もしたんだよ、ママ」
1枚の絵を得意げに見せに来る七菜。
「うわあ、上手ねー! 七菜はほんとに絵の才能があるね!」
莉子が言うと、七菜は嬉しそうに頷いた。
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