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綾波家は、和菓子屋を創業してから40年の歴史を持っている。哲也の父親が始めてから近所で少しずつ馴染みが増え、今ではお得意様もだいぶ増えて、和菓子の中でも生菓子を得意としていた。 一方、鷹村家は平安時代からの歴史を持った有名な老舗だった。生菓子も干菓子(ひがし)も人気を博しており、中でも金平糖は有名で、全国に何店舗も展開している。 その跡取り娘が自分の息子と縁を持ったものだから、篤子は近頃、上機嫌だった。 志乃さんは、前の嫁に対して少々気のきつい事を言ったらしいが、なんとも胸のすく話ではないか。 莉子さんは和菓子屋の基本である餡子作りが苦手だった。餡子の包み方も下手くそで、慣れるまで時間がかなりかかっていた。七菜には未練があるが、出ていってくれて万々歳ってもんだ。 篤子は、今日も朝から小さな厨房で餡子を包みながら、鼻歌を歌っていた。 「お義母さん」 志乃がそこへやって来る。 グレーのマタニティワンピース姿だ。 「どうしたの? 志乃さん」 鷹村家との顔合わせ以来、哲也はまだ入籍していない。志乃は当たり前のようにこの家に入り浸りになっていた。 「毎朝それをされてるんですか?」 「そりゃあ、当然よ。和菓子屋だもの。志乃さんの所もそうでしょう? まあ、うちみたいな小さな店じゃないとはいえ、ねぇ」 「朝の支度をしてからそれでは、毎回大変ですねえ。ふふふ」 志乃は笑った。 笑うと目が弓なりになって、白い頬がプックリと上がる。 「なあに? 何かおかしい?」 「お義母さんの手つきが素晴らしくお上手だなって思いまして」 「やあだ! 褒めないでちょうだい! そんな事、出来て当たり前でしょ」 篤子はますます機嫌が良くなる。嫁が変わると、こうも会話が変わるものなのか。 「でも、お義母さん、大変言い辛いのですが……」 「どうしたの?」 「実は私、こちらの店舗では干菓子を主にやっていきたいって思ってますの」 「へっ!?」 篤子は思わず素っ頓狂な声を出した。 なんだって!? 「お義母さんとお義父さんの今までの経歴はとても素晴らしいものなのですが、今は今どきのスタイルというものがありますでしょ?」 「な、何を言い出すの?」 「コンセプトを考えているんです。高丸百貨店さんも近いですし、ここは立地が素晴らしいですよね」 「高丸さん……。そりゃ近いけど、うちはずっと地域の人達に向けた菓子を作り続けてきてるのよ」
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