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「地域密着型ですね? それも素晴らしいですが、日持ちする落雁(らくがん)に少し力入れませんか?」 「落雁て……」 ここでは大福や団子などを中心に売ってきた。急に落雁だなんて……。 「カラフルな可愛らしいものを多種作って、ネットでも販売するんです。生菓子は、鷹村の本店でトレードマークでやってますから、ここでは干菓子をしたいなと」 悪びれなく志乃は言い切った。 「ま、まあ……若い人の好きそうなお菓子よねぇ。でも今まで懇意にしてきたお客様が……」 「ふふ。お義母さんって面白いですね。今は、流行り風邪のせいで、業界全体の売上が頭打ちしてますでしょ? 今の現状ご存知ですか?」 「ええ、そりゃまあ……」 「ギフトとしての生菓子の売上が厳しいのは分かりますよね?」 「え、ええ」 「最初の売上が、最初多少落ちても鷹村のほうで補填します。それから、餡子の包みは包餡機を購入致しましょう。人手を割いてられません。こちらで手配します」 「そんな……っ ほら、うちはこの地区の年中行事の時だって頼りにされてんだよ!?」 「そんなもの、また風邪が流行り始めればなくなりますよ」 冷たく迷いなく言い切る志乃に、篤子は喉が詰まった。  これはずっと大豆選びから始まり、餡子だけでなく、何から手作りでお父さんと二人三脚でやってきた事なのに! 「ダメよ、志乃さん。うちではこれにはこだわりがあるの! 餡子だってお父さんが何年もかけて……」 「お義母さん」 志乃はお腹にそっと手を置いた。少しふくよかな場所。生命の宿っている場所に。 「この子の未来のためにもお願いします」 「あ……?」 篤子は二の句が継げなかった。 「全てこちらで手配いたしますので、ご心配なさらないで下さいな」 「し、志乃さん……。哲也はなんて言ってるの?」 篤子は完全に手を止めていた。 「私に任せると言ってくれています。売上が一旦落ち着いたら、また伝統的なものにも手を入れたら良いですし。震災などにもニーズがある方向も探りたいんです。栄養をいれた干菓子って素敵じゃないですか?」 そう言って、ニコッと笑った。 篤子は引きつった。震災用の和菓子? なんなのそれ?  そんなの、困る。この店のやり方を無視されたら困る。困るじゃないか。
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