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「ねえ、これがエコー写真よ」 くぐもった声だが、はっきりと聞こえる。 「これ、顔か? なんか愛おしいな」 「ええ。先生が順調だって」 「良かった。元気な男の子だな。名前考えないと」 「ほんとね」 喜び合う男女二人の声。 「ねえ、さっきお義母さんに言ったのよ。お菓子作りのお話を」 「うん。どうだった?」 「驚いてたわ」 「だろうな。あの人は自負が強いからさ」 我が息子のセリフに心臓が止まりそうになる。 「国道から近いのに、この立地を生かさないなんてダメよね。商売の基本がなってないのよ。私、まず子供が産まれたら祝いの落雁を考案したいの。ここで作ったものをうちまで運んでもいいし」 篤子は手が震えた。 こんなのって、 こんなのって、まるで乗っ取りじゃないか。 「そうだな。今どき和菓子だけってのも限界だしな」 「そうなの。カフェにしても良さそう」 篤子は今すぐ二人に飛びかかりたい気持ちになった。 これは大変だ。お父さんに言わなきゃ。すぐにどうするか決めなきゃ。 しかし、肝心の主人は朝から町内行事で不在だ。 もし、この事を知ったら……。いや、今更結婚反対は出来ない。だって、志乃さんのお腹の中には哲也の子供、男の子がいるんだもの。どうしたらいい? どうしたら一番いい? お父さんに、なんて言おうか。 いや、言ってはいけないのか。 篤子は思考がまとまらず、固まった。 折角、鷹村家と力を合わせて盛り上げられると思ったのに、志乃さんは全く生菓子に興味すらないなんて。しかも年長者の自分の意見を聞かずにあそこまで一方的に喋るだなんて。 思ってもみない女性だわ。 篤子は哲也の部屋から背を向けた。 とりあえず、今日のしなければならない事をしなくちゃ。お父さん、早く帰ってきて。篤子は声が漏れそうになった。 素早く厨房に戻ると、すっかり固くなってしまった餡子を呆然と見つめ、作り直そうと考える。開店までの時間が足りない。 入口に【午後からの販売になります】と張り紙をして、和菓子作りに精を出した。こんな張り紙を出すなんて、商売屋失格だ。しっかりしなきゃ。  ねえ、なんでこんなに大変なのに哲也は顔を出さないの?  志乃さんが来てから、彼女と二人だけの時間が長くなった。前の嫁になら「働け」と言えたのに、あの志乃さんには言えない……。
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