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雨はすぐに激しく降り注いだ。莉子は折りたたみ傘をバッグから出すと、のろのろと広げる。
「ほんとに男って……っ」
呆れてものも言えない。
だって、あれだけ別れる時に親権を要求してきて揉めたのに。
「オレ、七菜がいないとおかしくなる」とか言っていたのに。それがもう新しい人と? そりゃ、自分が何も言う権利はない。それは分かってる。でもなんなんだろう。この真っ黒な気持ち。解せない気持ち。
歩いて店の細道から県道へ出ると、色の濃いチェーン店や、ホテルが視界に入った。白く上に伸びている今どきのシティホテルだ。窓際に座った客の姿が見えた。ゆっくりと足を組んでお茶を楽しんでいるその姿は、とても自分とはかけ離れているように感じて、一抹の寂しさを感じる。
「し、仕事仕事!」
莉子は、滲む景色に気を取られまいと自分に喝を入れて、バス停へと向かったのだった。
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