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「不満もなにも、お父さんが良いって言うわけないじゃないの」 「なんでも父さん父さんだな。そのうち倒産しちまうぞ」 「あんた、ふざけた事言ってんじゃないわよ。こっちは真面目な話なの」 篤子はここが店でなければ怒鳴りつけてやりたいところだった。 「でもさ、志乃はきちんと今後を見据えてるよ。来年に数字を出して会議にかけて……」 「うちの店で勝手されちゃ困るんだよ!」 声を荒らげると、哲也は分かりやすいほど不機嫌な顔になった。 「だったらどうすりゃいいんだよっ?」 「あの人は二番目の娘さんだろ? うちに入って店を手伝ってくれたらいいんだよ! 私はそれ以上は望まない!」 「前に莉子がやってくれたけど、母さんは不満だっただろうが!?」 「莉子さん? あの子はトロいんだよ。ドン臭くてうちには向いてない。しかも出ていっちまったじゃないかい」 「母さんが、いびるから」 「とにかく干菓子はだめよ」  うちの生菓子はよく売れるのに。 「鷹村さんとこに連絡してそう言えよ」 「顔合わせすら、ろくにしてないじゃない」 「あのさあ、分かってるだろ? うちとは格が違うんだよ!」 冷たく言い放って、哲也は厨房へと引っ込んだ。あの子ったら、営業時間がどうして遅れたのかすら訊かない。志乃さんがどんな言葉だったか、も。 篤子は途方に暮れた。前はあんな息子じゃなかった。家族で一丸となって店を盛り上げていたのに。 あの子は離婚してからすっかり変わってしまった。 「お父さんに一回相談しないと……」 呟いたその時、一人のお客様が静かに入店してきた。スーツ姿の男性だ。 「いらっしゃいませ」 篤子は笑顔で迎える。しっかりとした身なりのお客様に心が踊る。 きっと会社関係の手土産かしら?このご時世になっても変わりはしない世界があるのだ。 志乃さんは残念だ。折角、大きな和菓子屋の娘さんなのに基本が分かってないなんて。 和菓子は日持ちしないからこそ、人の心遣いが見えるというもの。古来からの信頼関係の象徴なのだ。店を持つこの気持ちが、なぜ分からないんだろうか。 「この塩豆大福をください」 「はい!」 篤子は満面の笑顔で丁寧に大福を包んだ。
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