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それからみんなでお昼ご飯を食べた。 メニューは夏らしく冷えたお素麺におにぎり、卵焼きだ。志乃さんは卵焼きを少し甘くするのが好きらしい。それを食べているあいだ、いつもとは違っておばあちゃんが志乃さんの話ばかりだったのを七菜は不自然に思ったのだった。 「志乃さんがうちに嫁いでくれたら万々歳だわ! うちも、もっと繁栄するわね! 鷹村の名家とうちがタッグを組めばこの先楽しみだわぁ」 なんて言ってた。父もまんざらではなさそうに終始笑顔で。 タッグを組むってなんなんだろう? お母さんはどうなるのだろう? 分からなくて、途端に不安に駆られた。この志乃さんがお父さんとすごい良い仲になったら、お母さんはどうなってしまうんだろう? 小さな胸がじくじくと古傷を抉るように痛み出した。この痛みは、両親が離婚する時に言い争っていた時に感じたものと同じものだ。 「あの……」 「なあに? 七菜ちゃん?」 「どうした?」 なんて言ったらいいんだろう。 なんて切り出そう。どの言葉が正しいのか正しくないのか分からない。けれど、お母さんはいつも思った事はきちんと言葉にしなさいと言っている。 だから勇気をだして口を開いてみた。 「あの、お母さんはどうなるの?」 一斉に、シーンとなったみんなの様子を見て、いけないことだったかな? と思う。 けれども言葉はもう口の中へは戻らない。 「七菜、あんたのお母さんはこの家を出ていったんだからね。他人なんだよ」 「でも、おばあちゃん、そしたら私はどうなるの?」 「あんたはうちの孫だよ」 なんか納得出来なかった。ストンと奥底に落ちることのない祖母の言葉は、どうしてかちょっと自分を不快な気持ちにさせる。 「お母さんの事は大事じゃないの?」 「……七菜、よく聞け」 椅子から立ち上がって、父は自分の所へとやってきた。目線を合わせるように膝を床へとついて、目を合わせる。とても真剣な眼差しだ。 「お父さんは、お母さんと別れたんだよ。これからは志乃さんと一緒に家族になるんだ。だから、……」 「お父さん……?」 「もう七菜と会うのは今日が最後だ」
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