1193人が本棚に入れています
本棚に追加
最後にきたデザートは、金木犀の香りがするシャーベットだった。そして少しの焼き菓子。大人は珈琲にして、七菜にはハーブティーを頼んだ。どうしても飲んでみたいというから。
カモミールティーだが、七菜は洒落た茶器を見た時とても嬉しそうな顔をして、一口飲むと、途端に眉根を下げた。
「なんか変な味ー」
「これは体にいいんだよ?」
「でも甘くない」
「甘いと思ったの?」
「うん」
「そっか。じゃあ七菜ちゃん、他の飲み物にしたら良かったかな?」
「ううん。私は今日、大人になる日だから、飲むの」
どうやら、背伸びをして大人二人に混じりたいようだ。
莉子は、笑い混じりに天沢へと向き直った。
「天沢さん、どれもすごく美味しかったです。本当に。ラヴィオリって、初めて食べました。中にお肉とお野菜が入ってるんですね。パスタなのに」
「そうなんだよね。パスタってひと口に言ってもたくさんの種類があるよね」
「平たいやつとか?」
「そう。面白いよね」
天沢はそれ以上のウンチクを語る事なく、自然と七菜とのお喋りを楽しんだ。
ああ、これってすごく幸せかもしれない。莉子はそう思う。こんな思い出はきっと一生の中で一度きりだ。なんて良い日なんだろう。七菜もずっと笑顔で楽しそうにして。
「あの、天沢さん、今日はありがとうございました」
「え? 何が?」
「……こんな美味しいお料理を一緒にいただけて、なんて言ったら良いのか……」
「大袈裟だな。たかだかフランス料理だよ」
「天沢さんにはたかだかでも、私にとってはすごい経験なんです」
「そっか。じゃあ、次は清川さんの知ってるお店に連れて行ってもらおうかな?」
「え?」
天沢は凄く嬉しそうに目を細めた。笑うと少年みたいになる。
「私の知ってるお店で良かったら……」
「ほんと!? じゃあ次はそこで」
本当にいいんだろうか? 私の知ってるお店って、よく行くのは焼肉屋でホルモンとか、ラーメンとか……七菜とはファミレス。あとは、回転寿司……そんな所に行った事あるんだろうか? 天沢さんは?
「楽しみにしてるよ」
「え? は、はい!」
受けてしまった……。
「焼肉とか好きですか? えっと……ラーメンとか食べたりします?」
「ん? ラーメン好きだよ」
「え? 本当に!?」
この顔でラーメンをすするのか。見てみたいと莉子は興味が湧いた。
「じゃ、今度美味しいラーメン屋に行きましょう!」
「いいね!」
「七菜も!」
嬉しそうに七菜も混じる。
最初のコメントを投稿しよう!