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「私は哲也さんと同じ立場からお店をやっていきたいんです。その為には改革も幾分か必要なんです」 「そ、そうなのかい? だけどね、そんなに慌てなくていいんだよ。お腹の子が産まれたら志乃さんだって大変だろうしさ」 「すぐにベビーシッターを雇いますよ。きちんと店の利益優先で」 志乃は隙を見せず言い返してくる。 「いやいや、母親がしっかり見なくちゃなんないよ。母乳やら夜泣きやら、オムツも大変だろうしね」 ああ、嫌だ。どうしてこの人はこんなに古臭くて貧乏臭いんだろう。志乃はため息を吐く。この、しみったれた臭いがこちらにまでつきそうだ。 志乃は嫌な気持ちを懸命に引っ込めながら、笑顔を作った。 「ま、そこは心配なさらないでくさださいな」 ニッコリと笑う志乃を見て、なんと言って良いか分からなくなった篤子は、引きつった顔しか出来なくなる。 ……嫌だわ。志乃さんと一緒にいると魂が削られるような気分になるわ。全て自分のペースでことを進めようとして。どうして年長者の気持ちを汲んでくれないんだい? 篤子は珍しく無言になる。 その時、志乃のスマホが鳴った。 「……」 手に取り、ディスプレイを見て指先で着信音を止める志乃。 「どうしたんだい? 出ないのかい?」 「ええ。必要ないんです。それよりもお義母さん、珈琲どうぞ」 「ありがとう」 するとまたすぐに着信音が鳴る。明らかに眉をつり上げる志乃。 「こっちの事はいいからさ、出てちょうだいな。急ぎの連絡じゃないのかい?」 「いえ、いいんです」 そう言って、志乃はまた切った。 一体誰なんだろう? 篤子は気になった。 「あれ、こりゃいけないね。この珈琲濃いわね」 「え? そうですか?」 「うん。悪いけど最近胃が悪くてさ、もう少し薄くしてもらってもいいかい? 上からお湯を足してちょうだい」 「ええ。分かりました」 志乃が背を向けてキッチンの奥に行った瞬間、また着信音が鳴った。篤子はサッと見た。 そこには【恭太さん】と書かれていた。 これ、男の名前じゃないか。誰なんだろう? 仕事相手? いや、それならば苗字登録するだろうに。
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