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「で、今日はこのお店のラーメンだよね? 凄く久しぶりなんだ。ラーメンなんて。早く入ろうよ」 天沢は子供みたいに目をキラキラさせている。二人で店内に入ると、「いらっしゃいませー!」と元気な声が飛んできた。豚骨の匂いに、ジューっと勢いよく火が通る音。厨房の奥で忙しそうに動く店員さんが見える。お客さんもそこそこ入っていた。 「空いてる席へどうぞー」 「空いてる席だって! 清川さん、どこでもいいのかな?」 「ええ。ここにしましょうか」 座ると直ぐにお水とメニュー表を店員さんが持ってきてくれた。 メニュー表を手に取る彼の姿は、本当に見ていて微笑ましい。 「ラーメンの種類が書いてあるんじゃないんだね。赤、白、黒って書いてあるけど、白は白湯(パイタン)……? 赤はお味噌? 黒って……これって?」 「私のおすすめは白湯のネギ増し、麺硬めです!」 「え? そんなふうに注文するの? あ、メンマとかも増やせるの? トッピングがある」 「そうなんですよ。だから、自分好みのラーメンがいただけるんです!」 「へえー」 天沢は物珍しそうにメニュー表をまじまじと見ていた。おそらくこんなところに来るのは初めてじゃないんだろうか? 「天沢さん」 莉子はこの前のフランス料理での立場が入れ替わった気分になっていた。 「こういう雰囲気のお店って初めてでしょう?」 悪戯っぽく訊くと、天沢は「そんな事ない」と否定する。いやいやいや、どう考えたって経験値が低いだろう。 「分からない事があったら訊いて下さい」 「え? ああ。うん。とりあえずその白湯の麺硬めで」 「いいんですか?」 「うん。清川さんが美味しいっていうものに興味あるからね」 その一言にドキッとした。 興味? 「すみません、白湯の麺硬めでネギ増しお願いします!」 顔が赤くなるのを誤魔化すように、莉子は元気よく注文した。
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