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03
クスクスと藤崎は笑いながら、続きをするためにストーブの前を離れた。背中に美澄の視線を感じながら、どこか暖かなそれに安心感を覚えつつ作業に集中する。ミニクリスマスツリーはもう少し必要かも知れない。リースよりも思った以上に人気があった。
美澄はお昼を藤崎の店の奥でちゃっかり食べてから、午後からは仕事だからと戻っていった。
藤崎は夕方前の空き時間に、昨夜のうちに書いておいたアルバイト募集の張り紙を外のガラス扉へ張り出した。時給はそんなに出せないし、時間の縛りもきつい。それも今だけの話で、免許が手に入れば配達ができるから少しは売り上げに繋がるはずだ。
(いい人が来るといいけど)
藤崎は花の手入れと陳列を直し、明日の注文分をどうするか考える。卸し市場に直接行かないときは、十六時までにネットで数量の確定をして注文しなければいけない。
確定をしてしまった後、閉店までに思った以上に花が出なかったり、また一気にひとつの種類だけ売れてしまったりすると、追加での受付ができないために翌日の販売に支障が出てしまう。個人店は大きいところと違って細かい調整が必要になってくる。本当はいつでも直接市場に行くのが効率的だが、そうもいかない。
藤崎はノートパソコンをレジまで持ってくると、美澄専用の足長の椅子を引っ張り出した。いつの間にかこの店には美澄専用のアイテムが増えている気がして笑ってしまう。
「それだけ、一緒にいるってことだよな」
呟きながら電源を入れた。明るくなった液晶には奥村のデザインしたインバーテッド・ティーと呼ばれる型のデッサン画が目に入ってくる。ピンクをメインにしたホリゾンタルとバーティカルの組み合わせを細く絞ったものだ。全体がTの字を逆さまにしたような形をとり、ウェストでシェイプされたように見えるためインバーテッド・ティーと呼ばれている。見た感じで使われている花は、モルセラ、アスター、ブルーレースフラワー、そしてピンクとレッドのローズだろう。オブジェとして様々な大きさのリングを模した線が幾十にも描かれてある。
きっといつかは、と奥村がそんな願いを込めたのだと思えば、その願いを叶えたくもなるだろう。
(そのためには、コンベンションで賞を取らないとダメだよね、浩輔――)
毎年行われるフラワーコンベンションで優秀賞を取った作品がそこへ展示される。さんざしをオープンさせてから奥村と二人で泊ったホテルのロビーで、初めて見た作品に心を打たれた。
リヤカーを模したような針金細工の花台に、ピンク色で統一された桜やピンクローズ、百合が躍動感をみせ、天に昇っていくようなラインを描いてアレンジされていた。
こんな風に誰かの心に残るような作品を作ってみたい、と奥村はキラキラした眼差しでそれを見ていたのを覚えている。
「頑張るよ」
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