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7
「千寿子が鬼だろ?
だから千寿子が掴まったんじゃなくて俺が千寿子に掴まったんだよ。
千寿子からあんなに追い掛けられてすげー楽しかった。」
「私は全然楽しくなかった・・・。
朝人を追い掛けるとか、本当はしたくないもん。」
「知ってる・・・そんなの分かってる・・・。
わざわざ言ってくんなよ・・・。
少しくらいいいだろ、気分だけでもいいだろ・・・。
気分だけでも・・・。」
朝人がそんなことを言って、私を抱き締めている両手に少しだけ力を込めた。
「朝人・・・?」
「うん、分かってる。
鬼ごっこしてただけ。
俺はただ鬼ごっこして逃げてただけだから。
鬼の千寿子に追い掛けられてただけだから。
待ってろ・・・すぐ離すから・・・。」
よく分からないけれど、そんなことを言われて・・・。
私は朝人の背中にゆっくりと手を回した。
そしたら少し驚いた。
朝人の背中は汗で凄く濡れていたから。
その汗を感じ、何故か抱き締められている自分の身体の熱、そして朝人からの熱すぎる熱も感じながら、心臓が煩く鳴っている朝人の身体を少し強く抱き締めた。
「離さないでよ・・・。
いっぱい走って疲れちゃった・・・。
足に力が入らないから離さないで・・・。」
絶対にバカにされると思ったけれど、朝人は何も言わなかった。
何も言わなくて・・・
いつまで経っても離さないでくれたから、私からも勿論離れなかった。
汗で濡れていた朝人のシャツが結構乾いてきたのが分かるくらい、それくらいの時間抱き締め合っていた。
このままずっと抱き締め合っていたいと思うくらい、私は幸せで。
私の足が疲れているからという理由だけでこんな状況になっているけれど、私は幸せで。
朝人のことが好きで。
私は朝人のことが凄く凄く好きで。
この大きく大きくなっていく気持ちをどうにも出来なくて。
私の胸からとっくに溢れだしているこの気持ちが、口から出てこようとしてきた。
「朝人・・・。」
朝人の名前を呼ぶと、朝人が私のことをもっと強く抱き締めてきた。
そしたら、それに合わせるように・・・
グゥ────────────.....と、私のお腹が鳴ってしまった。
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