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シャナは家族と言われてくすぐったい気持ちだった。自分はマーニに拾われてここにいること。マーニはすぐに根を詰めるから、その時の体調に合わせてお茶を出すようになったことを告げた。
「マーニにお茶を出すうちに、何となくいらっしゃるお客様に合うお茶がわかるようになりました」
「元々、其方が持つ力だろう。思いがけず美味い茶を淹れてもらった礼がしたい。何か望みはあるか?」
(……望み。ぼくの望みは)
「ぼく、魔術師になりたいんです。でも、マーニはうんと言ってくれません。薬のことは教えてくれるけど。どうやったらなれるんでしょうか」
「魔術師か。素養があるか、長い時をかけて魔術を学び習得できる才能があるか。そのどちらもないのなら魔術師にはなれない。マーニなら、それは既にわかっているだろう」
(ぼくには、どちらもないのか)
美丈夫は、しゅんと俯いたシャナを見て少し考えこんだ。
「美味い茶の礼だ。この先、何か困ったことがあったら助けになろう」
シャナの額に美丈夫の指先が軽く当てられた。一瞬、彼の指先が震えたような気がした。額の真ん中が熱くなって、胸がじわじわと温かくなる。
「これでいい。其方の声は必ず私に届く」
シャナが礼を言うと、男は微笑んだ。最後の客が帰った店の中は急に静かになって、とても広く感じた。
「シャナ! ただいま」
「おかえりなさい、マーニ」
息を切らして帰って来たマーニをシャナは笑顔で迎えた。マーニはシャナの笑顔を見た途端ほっと息をつき、ローブも脱がずにシャナの頬を両手で包んだ。
「ちゃんと扉を開ける時は注意したか? 合言葉を確認した?」
「聞いたよ。そもそも合言葉を言わなきゃ扉は開かないじゃないか」
「強引な奴がいるかもしれないだろう? お前に変なことをした奴はいなかったか?」
「変なことって……。皆マーニの友達や大事なお客さんでしょう? 親切だったよ」
「妙なものを渡してくる奴はいなかったのか? たしかめもせずに食べちゃダメだ」
「一体ぼくをいくつだと思ってるの? お土産ならもらったけど、まだ食べてない」
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