決戦の夜

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「次は…どうする……?」 キコは少し困ったように 「金魚すくい?かな。」 屋台をそっと指差した。 向かいの屋台も同じぐらいの混み用だった。 そっと覗き込むと気持ちよさそうに、 スイスイと泳ぐ金魚の姿がある。 時に紛れる黒い出目金の姿も。 「いくらですか?」 律儀にそう聞きながらキコは楽しげに 覗き込んでいた。 ヤンキーぽいお兄ちゃんとキコの会話を 聞きながら私は周りを見渡す。 浴衣の人も、そうでない人もたくさんいた。 でも、みんな笑顔が輝いていて、 なんだかこっちまで幸せになる。 「ねえねえ、見ててね!」 キコはワクワクしている。 それが強く伝わってきた。 「うん。」 キコは、ポイを構えて 素早く水中に突っ込む。 そして、逃げ惑う金魚をそうっとすくった。 優しいキコらしい手つきだった。 いとも簡単に金魚をすくって、 私は目を丸くする。 私なんて何度やってもできないのに。 私よりもキコは断然器用だ。 「すごいね!!」 「もう一匹とっちゃおうかな〜」 少し、小さめな金魚を狙う。 金魚はすばしっこくて キコは手を必死に伸ばす。 水が染みた紙は柔らかくって、 「あ……」 キコの健闘も虚しく、 紙はあっけなく破れた。 キコは複雑そうな表情を浮かべながら、 取れた一匹の金魚を眺める。 それから、顔をしかめた。 「冷たい……」 キコの袖がびっちょりと濡れていた。 手を伸ばしすぎて、 濡れてしまったのかもしれない。 「何か食べ物買って、神社に行こうか。」 キコは寂しげに頷いた。
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