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決戦の夜
「これで、合ってるのかなあ……」
私は鏡の前で、
5分ほどくるくると回っていた。
時間は、17時30分ほど。
約束の18時までは時間があった。
それでも、落ち着かない。
おかしくないかな?と
何度見ても変わることはない。
早くても、45分に出れば必ず間に合う。
だからといって特に何もやる気にならない。
鏡の中には、
いつもはポニーテールの金髪を
頑張ってとかす姿があった。
そこまで、着飾った様子のなかった
九尾様よりも
ずっと劣って見えるのは何故なのだろうか?
小花模様のオレンジ色の浴衣。
おしゃれな髪留めで髪を縛る。
似合ってない気がして、ウロウロとする。
そうやって、うじうじしていると
45分を少し、回っていた。
「やばっ!行かなきゃ!」
慣れない下駄なのだ。
気をつけて歩かないと!
外は夏のわりには涼しくて、
風も吹いていた。
神社には今日も誰もいない。
ただ、キコだけが階段のふもとにいた。
「キコ……」
いつも通り。
仮面をしているけれど、
美しい浴衣を着ていた。
「こんばんは。」
「うん。こんばんは。」
キコは、お面に手をかける。
「いきなりとってたら、
僕ってわかんないかなと思って。」
お面のしたから現れた少年の顔は、
キコだった。
細く、白い骨格。
細い目、でも優しい目だった。
サファイヤのような色の目は
宝石のように輝いていた。
誰がどう見ても美少年だった。
こっこんな人の隣を歩くのか……
ちょっと、顔が赤くなる。
「キコって、結構かっこよかったんだね。」
照れを隠すようにそういうと、
キコは嬉しそうに微笑む。
「そうかな?嬉しいよ!」
優しい、微笑みだった。
「じゃあ、行こうか?」
キコはお面を、放り投げる。
お面がすっと消えた。
そして、私に手を差し出す。
「え?」
「迷子は嫌だし。」
キコは問答無用と私の手をとる。
顔が見えるからだろうか?
いつもより、すっごく恥ずかしい。
キコの手のひらは大きくて、
私の手を包んでいた。
キコは特に気にした様子もなく
私の手を握りしめている。
「あ…。ありがと。」
くっ!沈黙!辛い!
「キコは…何がしたい?」
段々と人が増えてきた中、
必死に話題を出す。
「うーん、色々。
かき氷食べたいし、
射的とかもしたい。」
キコからスラスラと
やりたいことが出てきた。
「夏祭りについて知ってるんだね?」
キコは、照れ臭そうに笑う。
「あの神社も昔は結構人が来てたから。
それで、
夏祭りについて話してる人がいて。」
そういえば、そうだった。
私が小さい頃は人、結構いたんだよね。
私はにぎわっていた昔を思い出して
目を細めた。
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