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Trust me
ジェレミーは、ゆっくりと目を開けた。
ぼやけた視界に広がる室内は薄暗い。瞬きを何度か繰り返すと、頭が目覚めた。明け方近くにトラヴィスが眠ったのを見届けてから、自分も目を閉じたのだ。
室内を一瞥する。薄暗いが、南側の窓を覆う厚いカーテンの隙間から、明るい光が顔を覗かせている。
ジェレミーはふわふわしたコンフォーターの下で身を捩じらせて、ベッドサイドにあるクロックを見た。時計の針は、午後一時を回っている。
傍らで、トラヴィスはまだ眠っていた。自分に寄り添うように体を少々傾けて、子供のように熟睡している。
ジェレミーはシーツに肘をついて、少しだけ起きあがると、しばらくトラヴィスを見つめた。寝ている時が、一番顔をよく見ることができるのである。
――全く。
相変わらずな男だと、苦笑いした。トラヴィスはけして正統派の美男子ではないのだが、非常にセクシィなのである。イタリア系移民の子孫らしく、エキゾチックな黒い髪に神秘的なダークブラウンの瞳、南国特有の甘くて男らしい魅力的な顔立ち。本人は外見には無頓着で、身なりに気をつけようという意思も全くないため、一見して粗野な風貌なのだが、その眼差しはとても色めいていて、アカデミーで鍛えられた肉体とあわせると、その辺のハリウッド俳優よりもよほど人を興奮させるものがあった。
ジェレミーは思い出したように小さく笑った。実際に本部内で、トラヴィスをそういう眼で見た男たちを何人か目撃している。不幸なことに本人はそういう方面には鈍感なために、あいつは俺にガンをつけていやがるとだけ思われ、逆にマフィアも真っ青の凄みのある睨みを返され、ほとんどが回れ右をしていた。もし勇気があるなら、トラヴィスをベッドに押し倒せるだろうが、思いっきりストレートパンチを喰らい、さらには急所を蹴っ飛ばされて終わりだろう。自分も蹴られそうなところをうまく交わして、ベッドで抱いたのだから。
ふふっと珍しく笑い声が洩れる。懐かしい想い出が、心を豊かにする。初めての夜は、まさに格闘だった。男に抱かれることに抵抗感を露にしたトラヴィス。それをなだめて、説得して、さらにちょっぴり騙しながら、最初は優しく丁寧に、徐々に激しく熱くなり、最後は気を失わせてしまった。それでも、その日以降毎晩のように抱いた。トラヴィスを舐めるように味わいたかった。クアンティコの訓練生時代、ルームメイトだったからできたことだ。
『俺は男とは初めてなんだ!』
初めての夜、自分の下で噛みついたトラヴィス。
『――私を信じて欲しい』
そう告げて、言葉を封じるようにキスをした。絡みついた舌の快感が、いまだに忘れられない……
トラヴィスが寝返りを打った。寝息は規則正しく、安らかだ。
あの時と変わらないと、ジェレミーは安心した。子供のように純真な寝顔。それは自分にとって、何よりも大事なものだ。
――いい顔で寝ている。
ジェレミーはまた笑った。きっと愉快な夢でも見ているに違いない。自分に散々悪態をついているとか。
それだったらいいと思った。ニューヨークでの捜査で、トラヴィスは傷ついた。守りたかったが、自分の思うとおりにはならなかった。
手を伸ばして、トラヴィスの額にかかる前髪をそっとよける。そして顔を近づけると、唇にキスをした。起こさないように気をつけて。
目覚めたら、おはようと言おう。ジェレミーは愉しく想像する。トラヴィスは恐らく、こう言い返してくるに違いない。くそったれ。それから、おはようと。
苦笑いしながら、またベッドに横になった。それを隣で待つのも悪くはないと思った。
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