Lovers' quarrel

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Lovers' quarrel

 ベッドの上でうつ伏せになっているトラヴィスは、洗ったばかりの白いシーツを両手で無造作に掴み、腰の激しい動きに堪えていた。訓練生時代に鍛えられた身体は、ラインが崩れることなく、人の手で造形されたかのような美しい裸体を惜しげもなく披露している。長い手足は、先程から変わらぬ姿態(したい)で、膝をつき、足を大きく開かされていた。その間に身を滑り込ませ、両手で腰を持ち上げ、自らのもので何度も突いているのは、ジェレミーである。  ジェレミーもまた一糸纏わぬ姿で、トラヴィスの秘所を貫き、さらにその奥を貪欲に荒らしていた。顔立ち同様に端整な体は、荒々しい動きを物語るかのように、汗で濡れている。自らの欲情を剥き出しにして、冷酷なまでにトラヴィスを責めるジェレミーは、優美な口許に恍惚の笑みを浮かべていた。それは満たされている快感からなのか、それとも征服しているという満足感からなのかはわからない。  シーツに顔を埋めて、突き動かされるたびに喘ぐトラヴィスは、つい少し前までジェレミーに怒りをぶちまけていた。理由は職業上の問題である。ワシントンDCにあるFBIの本部で、アリスン・キーンと衝突してしまった。アリスンは未来の長官職を狙っているという噂の持ち主で、自分の手柄になりそうな事件をハイエナのように嗅ぎつけると評判である。数週間前に起こったある事件の捜査チームを指揮していたコールマンが、直属の部下たちの活躍で解決の目処が立ちそうになったところで、アリスンが横槍を入れてきた。いわく捜査の仕方に問題がある――。なんのことはない、捜査権を奪い取ろうとしたのだが、それに猛反発したのがトラヴィスだった。もうほとんど解決間近の事件なのに、なぜコールマンが交代させられるのかと。ミリアムとヒースも抗議したが、アリスンの攻撃が集中したのは、日頃から「あのチンピラ」と呼んでいるトラヴィスだった。二人は周囲が止めに入るほどの口論をし、結局アリスンが引き下がったが、この時仲裁に入ったのはジェレミーだった。 「あの女、いい加減にしろ!」  今夜家を訪れたジェレミーに、トラヴィスが開口一番叫んだのはそれだった。 「落ち着け、トラヴィス」   ジェレミーは仕立ての良い上着を脱いで、椅子の背もたれにかけた。 「事件は解決した。おかげでお前は帰ってこられた。怒ることではない」 「ああ、お前はあの馬鹿の部下だったな。さぞかし、可愛がられているんだろうさ!」  ジェレミーは聞こえない風に、棚から赤ワインの瓶を取り出すと、ガラスのコップに注いだ。透明なコップは、みるみる葡萄色に染まる。 「あのくそったれは、俺にこう言ったんだ。『トラヴィス、私たちに失敗は許されないのよ。FBIはすでにあなたをアカデミーで卒業させた時点で、失敗しているわ』ってな!」  トラヴィスは両手で持っていたステンレスの鍋を、叩きつけるようにガスコンロに置いた。入っていた水がちゃぷんと跳ねあがる。 「俺は言ってやった。『じゃあ、あなたがこの世に生まれた時点で、FBIは未来の火種を抱えたってわけですね』ってな!」 「彼女を敵に回すな。蛇のような女性だ」 「そのゴルゴンはお前には本当に優しいな! 俺とはえらい違いだぜ!」  トラヴィスは容赦ない。  ジェレミーはキッチンの壁にもたれながら、静かに赤ワインを口にした。トラヴィスが八つ当たりのモードになってきているのを敏感に察知する。 「『あなたの言うことは正しいわジェレミー』って、くそ笑わせるな。お前はゴルゴンの弱みでも握っているのかよ! さすがにエリートのやることは違うな!」  トラヴィスは戸棚を開けて、パスタの入った袋を掴み取る。 「エリートは言うことも違うな! 『ヴェレッタ捜査官は言葉を知らない』って、俺にハイスクールで補習クラスでも受けろってことか!」 「お前は熱くなって言い過ぎていた。気をつけたほうがいい」  ジェレミーは冷静に指摘する。  トラヴィスは袋のはしを乱暴に引っ張った。封が開いて、中から新鮮なパスタを全部出す。 「ああ、もちろん気をつけるさ。俺の人生がうっかり出世コースにのらないように、気をつけて罵ってやる!」 「トラヴィス」 「お前も、ゴルゴンの靴を舐めておけよ。もっとも、言われなくてもわかっているだろうさ。俺のことを、平気で頭がイカれているように喋るくらいだからな。随分と仲がいいんだな!」  それが腹立たしいと言いたげに鼻を鳴らした。  ジェレミーは半分まで減ったコップをそっとテーブルに置くと、ゆっくりとトラヴィスに近づいた。ガスコンロにスイッチを入れたトラヴィスは、負けじと振り返る。 「つまり、お前は私が彼女と寝ていると言いたいわけか?」  ジェレミーは腕組をして顎をあげると、冷ややかに告げる。その態度に、熱くなりすぎていたトラヴィスは、冷水を浴びせられたかのように一気に押し黙った。 「――そうじゃない」 「当然だ」  それ以外の返答だったら許さないというような雰囲気で頷くと、つけたばかりの火を消した。 「もう料理はいい」  今夜訪れた理由の一つが、トラヴィス手製のパスタ料理なのだが、ジェレミーはトラヴィスの腕を掴んだ。 「それほど傷ついたのなら、謝罪してやる。ベッドに来い」 「あ、ああ……」  トラヴィスは乱れたシーツに(すが)りついた。腰をいいように振られ、貫かれるたびに、乱れた声が出る。下半身は自分の意思とは関係なしに動き、ジェレミーの圧倒的な力に従っている。膝をついてもいられないが、腰を抱えられ、犬のように四つん這いになっている。その羞恥と快楽とが、トラヴィスを恐ろしく感じさせていた。 「いい声だ……」  ジェレミーはうっとりするように呟くと、トラヴィスの臀部(でんぶ)をわずかに持ちあげ、腰を動かしている手をさらに早めた。 「あ、あ、あ……ああ……」  トラヴィスはシーツに顔を擦りつけて、苦悶と快感の紙一重のような喘ぎをあげた。膝はガクガクと震え、足は左右にしっかりと広げられている。恥部は大っぴらに晒され、ジェレミーのものを受け入れている。その恥部の奥を、飢えたように貫かれている。  ジェレミーの目が、恍惚の度合いを深めた。 「……あ……ああ……ああ!」   トラヴィスは絶頂の声をあげた。体の奥で、射精された。  ジェレミーは満足したように息をつくと、顔の汗を手でぬぐって、トラヴィスから自らをぬいた。秘所を犯していたペニスは、汗が浮かぶ肌に劣らず濡れている。トラヴィスの恥部も同じようにびっしょりとしていて、中から液が肉体の線をなぞるように垂れ落ちて、シーツを汚す。  解放されたトラヴィスは、ぐったりと手足を投げ出した。目はきつそうに閉じられ、口は荒い息をついている。 「トラヴィス、大丈夫か」  ジェレミーは優しい手つきで、トラヴィスを仰向けにした。 「ああ……」  トラヴィスは軽く両目を開けると、ウィンクをする。 「大丈夫だ……悪くない……」 「わかった」  ジェレミーは小さく笑むと、再びトラヴィスの両脚を広げ、今まで突いていた恥部を今度は舌で責めはじめた。 「……あ、あ、……」  トラヴィスはベッドの上で背中を反らした。反射的に足が動くが、ジェレミーの手が押さえつけている。ゾクゾクするような興奮が、背骨を伝って這いあがってくる。  ジェレミーは足の間に顔を埋めて、丁寧に舐めてゆく。舌は蛇にようにしなやかに這いずり回り、敏感な部分を強く吸いつける。 「あっ……」   トラヴィスは頭のてっぺんから反り返して、シーツの端を両手で握りしめた。トラヴィスのペニスも存分に感じている。  ジェレミーは舌を離し、顔をあげると、トラヴィスのペニスを手で包み込んで、ゆっくりと(しご)き始めた。  トラヴィスはさらに仰け反った。ペニスは今や大変に濡れていて、ジェレミーの意のままにされている。 「ああっ……」  トラヴィスはまるでそれに応じるように、腰を動かし始めた。  それを見て、ジェレミーはからかう。 「もう、欲しくなったのか?」  トラヴィスは喘ぎながら、甘えるように呟く。 「わかっているだろう、くそったれめ……」 「了解した」  ジェレミーは手を離すと、トラヴィスの両脚を思いっきり広げて、両腕で抱え込んだ。膝がトラヴィスの顔近くまでくるほどに折り曲げると、待ちかねていたかのように濡れている恥部に、再び押し入った。  トラヴィスはジェレミーの背中に腕を回して縋りついた。そうしないと、下半身を貫く興奮に堪えられそうになかった。  ジェレミーはトラヴィスを押さえつけ、容赦なく突いてゆく。日頃、氷のような冷徹さで鳴らす捜査官とは思えないような激しさで、飢えを満たすように愛してゆく。  それから、トラヴィスの口を塞いだ。恋人のペニスを舐めた舌を、今度は口に入れる。  トラヴィスも手を背中から頭に回し、自らも求めた。二つの舌は、まるで生き物のように絡まりあっては舐めあい、舐めあっては絡まりあう。  二人は満足することを知らないかのように、(むさぼ)りあった。 「……なあ」 「どうした?」 「腹減ってないか?」 「いや、全然」 「タフだな」 「お前をいっぱい食べたからな」  二人は情事の余韻が残るベッドの上で、クスクスと笑いあった。
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