運命の歯車

1/3
前へ
/81ページ
次へ

運命の歯車

 指定された席につくと、碧斗はイヤフォンを耳に入れ、リクライニングシートを倒して目を閉じた。  今日までの事がフラッシュバックするみたいに思い出される。 *  大河と一緒に住み始めた頃、碧斗のスマホにはミキからの連絡が毎日のように、しつこいくらい頻繁に入っていた。  あんなに最近までずっとミキと一緒にいたのに、急に碧斗がそっけなくなったからだ。  あの日を境に…。  そして運命の歯車が狂い出す…。  誠也の引っ越しの日の少し前の週末。引っ越しの準備の手伝いで誠也の実家に親友四人が集まった。  その日の夜遅く。  ミキと碧斗が二人で会ったのは、あの日の夜が最後だ…。  そう。あの日。  誠也の実家にみんなで集まって、誠也の引っ越しの手伝いをした日の帰り。  碧斗が恒介に自分のマンションまで車で送ってもらい、マンションの前で恒介の車を降りた。  車の窓越しに恒介に別れを告げ、過ぎ去る車を見送ると碧斗のポケットのスマホがなった。  ミキからだ。 「碧斗?もー。なんで電話にでなかったの?何回も電話したのに。」 「あ、悪い、気がつかなかった。」 「いまから、会いたい」 「あー、ゴメン、今日はつかれちゃってもう、今、寝るとこ」 「うそ。」 「え?」 「もう、来ちゃってるよ…。 うしろ。」  その声がスマホからでなく後ろから聞こえる。振り返るとそこにはミキがたっていた。  碧斗はおもむろに眉をひそめた。 「なんだよ、いたのか」 「いたよ。会いたくなっちゃった…」 「いつからいたの?」 「さっき来た」 「待ち伏せかよ」 「そうかも」 「なんか、それってストーカーだな」 「ストーカーなんかじゃないよ。お互い了承済みの関係でしょ?あたしたち。」 「なんだよそれ…」  碧斗が所有している碧斗のマンション。もう何度も訪れている。  合鍵はくれないけど。  こうしてここに来る女の子が自分だけなのはわかってる。  碧斗の気持ちが本気の愛とかじゃなくたっていい。  こうして碧斗を独占できればそれで満足だった。碧斗とは体だけの関係。   それでもよかった。碧斗と過ごせる時間が全てだった。それだけでしあわせだった。  確かにそのはずだった。  あの時までは…  碧斗から連絡が来れば、こうして碧斗の欲を満たしにミキはやって来る。   でも時々、ミキの方が無性に会いたくなると、ミキの方が碧斗を抱きにマンションにやって来る。  二人はずっとそんな関係。  碧斗が追い返さないのはわかってる。  だけどなんだか…。  その日はちょっと、碧斗の機嫌が悪いような気がしていた。  いつものように碧斗のあとについてマンションに入る。  玄関を入ると碧斗は勢いよく振り返った。  その眼差しがなんだかいつもと違う気がした。 「どうしたの?今日はなんか、あった?」  碧斗は先に部屋に入ったけど、まだ靴を脱いでいる中腰のミキの腕を勢いよく掴んだ。 「え?なに?」  少し強引にミキのからだを起こし両肩を掴んで自分の方に向かせた。 「なに?碧斗…?ちょっっ…」  ミキの頬を乱暴に両手で挟み込むと噛みつくようなキスをした。  いつもはミキの方から迫るようにキスをせがむのに。なぜか今日の碧斗はいつもと違った。悲しい眼差しでみていた。  碧斗はミキを抱え込むようにして壁側に追い込みながら唇を合わせたままミキの服を剥ぎ取った。 「碧斗?どうしたの? なんか、いつもと違うね…。」
/81ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加