運命の歯車

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 ミキは何度もメッセージを送った。 だけど返事はない。  ついにメッセージの返事を待ちきれず碧斗のマンションに押し掛けた。  インターフォンを鳴らすとしばらくして重い扉が静かにゆっくりと開いた。  不機嫌そうな碧斗が玄関の扉の向こうから現れた。  玄関の足元には見覚えのある派手な靴。  あの靴、大河のだ…。  玄関で立ち尽くすミキに碧斗からの思いもよらない衝撃の言葉が言い放たれた。 「なに?  ミキとはもう会わないって連絡したよね…。」 「なにって?  なんで?  なんかしたかな。あたし…。」 「ミキのせいじゃないよ。ミキは悪くない。僕の問題…。」 「なに?どう言うこと?」 「僕、大切な人が出来たんだ。」 「え?」  二人が黙ったタイミングで碧斗の背後からひょっこり顔を出したのはやっぱり大河だった。 「お?やっぱりミキじゃん!久しぶり!」  二人のこの状況のわからない大河はいつものように明るくミキに声かけた。 「ミキの声がすると思ってたんだよな。そんなとこで話してないで上がってもらったら?」  大河はのんきにそう言った。 「すぐ済むから、ちょっと大河はあっちいっててよ。」  碧斗は大河を追い払うようにそう言った。 「なんだよ。その言い方さあ。」  ふてくされたような顔でおちゃらけると大河は再び奥に戻っていった。  午前中のこんな早い時間からあんな格好。  短パンにTシャツ姿。  髪の毛も洗いざらし。  どうみても泊まった次の日の朝のスタイルだ。  男同士、親友同士。  きっとそんなことだってある…。  ミキは不安を押し込み、自分にそう言いきかせる。  振り返って大河が見えなくなるのを確認した碧斗がこっちを真っ直ぐみた。 「ね…。そう言うことだから。 ゴメン…。」 「え?」  ミキは思わず聞き返した。 「だから、そう言うことだから。 あれ…。僕の大切な人…。」 「ええ?」  耳を疑った。  碧斗は確かバイじゃなかった。  もちろん、ゲイでもない。  大河とは子供の頃からの親友同士のはず。 「嘘でしょ?」 「嘘じゃないよ。  とにかくそう言うことだから。  ゴメン。」 「え?なんで?意味わかんないよ。」 「最初に言ったよね。付き合う時。 僕は女の子とのつきあいは長続きしないけど、それでもいいの?って。  別れる時が来たらわかれるけどいいの?って。聞いたよね。それでもいいって言ったよね?ずっと昔に。」 「え、でも、今日まで普通に一緒にいてくれたよね?ついこの間だってあたし達…」 「今回は珍しく長続きしたって、僕だって思ってる。  ミキは一緒にいて楽しかったしラクだった。居心地がよかったよ。  今までの女の子たちの中では一番だった。」 「なら、どうして? もう、このままずっと一緒にいるんだと思ってたのに。  あたし、なんかしちゃったかな…  それなら、言ってくれれば、直すから。」 「だから、ミキのせいじゃないんだってば。だからさ、僕の問題。気がついちゃったんだ。」 「え?」 「僕は僕の8歳の、あの誕生会の時から多分ずっと大河が好きだった。  自分でも気がつかなかったけど。」 「だって?え?うそ。男の人、恋愛対象じゃ、なかったよね?」 「そうだよ。 僕だってビックリだよ。」  大河のいなくなった後ろを少しだけ碧斗は振り返った。  その振り返った顔がこっちに戻った時の碧斗の表情は、愛する人を想っている幸せそうな表情をしていた。 「たまたま一番好きだったのが大河だったってことに気がついたんだ。  その大河がたまたま男だった。 ただそれだけ。  他の男には全く興味ないし。」 「なら、あたし、二番目でも、いいから…。」 「ゴメン、僕は二人同時にとかって、無理だから。」 「やだよそんなの。」 「ほんと、ゴメン。」 「やだよ…こんなの…」 「もう話すことはない。帰って。」  ミキは涙をこらえてその場を立ち去った。涙なんか見せたくなかった。
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