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あの日の碧斗はかけた電話にイラつきながらめんどくさそうに応えていた。
あの日の夜、碧斗の家まで押し掛けたミキが碧斗の家の前にいて。
あの振り返ってミキがそこに立っていた時の碧斗の顔は本当に不機嫌そうな表情をしていた。
何かに少しイラついていた碧斗はなんだか攻撃的で、いつもの碧斗じゃなかった。いつもみたいに受け身なんかじゃなかった。
碧斗のマンションの部屋に入った途端に早足に近か寄ってきていきなり痛い程、腕を掴まれ、そのままミキを抱いた。
その日の碧斗はいつもと違って少しだけ乱暴で強引だった。
まるで、その目の前で抱いているのがいつものミキじゃなく、他の誰かを抱いているみたいに…。
その瞳はイライラしていて、だけどなぜかひどく悲しげだった。
*
碧斗の衝撃の告白と、思わぬ妊娠発覚からミキは心が落ち着くまでさらに丸1日かかった。
そして大事なことに気がついた。
そうだ…。
これでもう、碧斗を繋ぎ止めることが出来るんだ…。この子を産めば碧斗が私のものになる…。だって…。
一人で部屋に籠りながら、布団のなかでミキは不敵な笑みを浮かべていた。
数日後。
何度も連絡はしてみたけど返事はない。部屋に行っても留守なのか、碧斗が顔を出すことはなかった。
会ってくれようとしない碧斗とちゃんと話をするために、碧斗の働く会社に向かうことにした。
駅を降りて碧斗が勤めるオフィスビルに向かう。
ここには以前、正面入り口の前まで来たことがあった。
前にデートした帰りにミキが運転する車で立ち寄り、ここで碧斗を降ろした。
碧斗はやり残した仕事があると言ってここで別れたことを思い出す。
空高くそびえ立つ無機質な鉄の塊がでんと構え、最上階まで続くガラス張りのガラスのカーテンウォールが太陽の光を反射させてキラキラと眩しく輝いていた。
今、碧斗はここにいる。
くちもとをしっかりと結び、決意の眼差しでそれを見上げたミキの胸には強い覚悟があった。
宿した命を碧斗とこの先、一緒に守っていくためにも、このまま会わずにいるなんていう選択はミキにはなかった。
あの後、碧斗のマンションに行ったけど、インターフォンをならしても出て来ることはなかった。
だから、確実に会える方法はもうこれしか思い浮かばなかった。
ここで会えなかったら、碧斗のいない碧斗の実家に、話に行くしかない。
だけど、碧斗と話す前に、碧斗の親に知らせてしまうのはやっぱり気が引けた。
まずは碧斗と直接話がしたかった。
ここまで来たら、もう、後には引けない。
ミキは覚悟を決めて自動ドアの前に立った。
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