碧斗の職場

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碧斗の職場

 大きなビルの一階の広い吹き抜けのあるエントランスを入ると立派な受付に綺麗な女性が三人いて、外から来た人たちを笑顔で迎え入れていた。 「あの…。すみません、碧斗さん、真壁碧斗さんに会いたいんですけど…」 「本日はどういったご用件でしょうか?失礼ですがお名前を頂戴してもよろしいでしょうか?」 「田村ミキと申します。」 「真壁はただいま、席をはずしております。本日アポイントはとられていらっしゃいますか?」 「いえ。ここで待たせてもらっていいですか?」 「ここでお待ちいただきましても、お会いできるか…」 「ちょっとだけでもいいんです、話があるんです。  大事な話があるんです!  わたし、碧斗と付き合ってるんです。だから、あの…!」  困った顔の受付担当の人にしがみつくように一歩もひかないミキ。  その異常な雰囲気に、なんだなんだと周りがざわつき始めた。  こそこそ話も聞こえてくる。 「専務の彼女ですって。」 「ほんとにそうなの?まさか思い込みの激しいストーカーなんじゃない?」 「あんな礼儀知らずで非常識な人、育ちのよい御曹司の碧斗さんとは釣り合わないわよね…」  なんて声が聞こえてくる。  ミキはそんなことなんかお構いなしだ。  だって自分は碧斗の子を身ごもってるんだから。  そのなりふりかまわないミキの行動に不信感を抱いた受付担当の一人が、警備を呼んだ。  近くで警備をしていた男性のインカムマイクが反応し、ロビーに姿を現すのとほぼ同時に、ミキの後ろから背の高い男性が近づき声をかけた。 「あの…ミキさん…?ですね?」  聞き覚えのあるその優しい紳士的な声に振り替えると、そこには知った顔の男性がたっていた。  彼は受付の女性に目配せをして、ここは私が対応しますといった様子で、その手を挙げて警備の男性が近づいてくるのを制した。 「あ…」  彼のことはよく知っている…。  碧斗の家に住む使用人の恭弥さんだ。  彼は、子供の頃、気がついた時には碧斗の家に住んでいた。  確か彼の母親は長いこと碧斗の家に仕える人で名前は菊さんと呼ばれていた。  碧斗の家に行く度になにかとよくしてくれた菊さんのことはこどもの頃からよく知っている。  そこにいたのが恭弥だ。  年は碧斗より二つ三つ年上で、しばらくは兄弟だとおもっていた。  どうやらこの菊さんの連れ子らしかったが、ひとりっこだった碧斗はこの恭弥を兄のように慕い、本当の兄弟のように過ごしていた。  彼はとても優秀で、とてもいい大学を出たと聞いた。  中学や高校の頃、碧斗のいえに行くと度々顔を合わせたが、年が行くにつれて一緒に遊ぶこともなくなり、彼はそのうち勉強が忙しく、顔も合わせなくなっていた。  碧斗がマンションから大学に通うようになってから、本当に数回ほど、実家で見かけ挨拶した程度だ。  そんな彼が顔を覚えていて、ここでこうして声をかけてくれたのが救いだった。
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