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「ミキさん、私が専務から話はうかがっておりますので。
ご案内します。こちらへ…」
「え?」
ミキも驚いたが周りの人間も驚いて顔を見合わせた。
恭弥は爽やかな顔で受付の女性や警備の男性にさらっと言った。
「僕のほうでこの件は承ってますので、あとはお任せ下さい。」
そういいながら恭弥がミキの背中を優しくてのひらで押しながら奥の談話ブースの仕切られた一角に向かった。
低めのパーティションでしきられた空間にいくつもならぶ椅子とテーブルが並んだそのエリアはフリースペースになっているようでふらっと立ち寄る社員が空いている席を探して自由に腰かけ飲み物をのんだりパソコンを叩いたりしている。
向き合うと恭弥が優しい笑顔を向けてきたのでミキは少しだけほっとする。
碧斗から話を聞いてたなんて気を利かせてくれた恭弥の機転のきく行動にミキは驚く。
もちろん突然こうして押し掛けたんだから、話しなんか聞いているはずはなかった。
「今日は…、いかがいたしましたか?」
子供の頃と変わらないその笑顔はとても優しく誠実で、賢そうな顔立ちだ。菊乃に面影が重なる綺麗な顔をしている。
見るからに仕事の出来る雰囲気で、そして相変わらずのイケメンだ。
仕立てのよい高級そうなスーツのよく似合う長身で肌は綺麗な透き通るような色白でキリッとした目に高い鼻、
そしてえくぼがかわいい。
菊乃と同じところにえくぼがある。
「あの、恭弥くん?だよね?」
「はい。僕です。」
「なんか、恭弥クンなんてもう違うよね、立派になっちゃって、見違えた。」
「ミキさんこそ、こんなに美しい女性になられて。ミキさんのことはうちで何度かお見かけしてましたけど。」
「あたしも何度か恭弥さんの事はみかけたけど。こうやってちゃんと話すのは何年ぶりかな。昔はよく碧斗の家に行くとみんなで一緒にあそんだよね。」
「はい。懐かしいですね。」
「恭弥さんはどうしてここに?」
「僕は家では、碧斗さん専属の使用人としてお世話をしておりますし、旦那様の経営するこちらの会社に就職しましたので、こちらでは碧斗さん専属の秘書をしております。」
「そうだったんだ。いい大学めざしてるっていうのは随分まえに碧斗からきいたけど。碧斗の家の会社に就職してたんだ。」
「はい。だから、先に就職した僕は碧斗さんより二年先輩です。立場は下ですけど。」
恭弥がさらっと笑いながらそんなことを言った。
「それで、ミキさんの方は?
今日はどうされたんですか?」
「ごめんなさい。あんなに取り乱したりして。どうしても碧斗と話したくて
」
「なにか、お急ぎでしたか?今、会議中でして。その後も何件か来客のアポが入ってます。」
「そうよね。職場に突然押し掛けるなんて、私もどうかしてる。でも。最近マンションに行っても会ってくれないから。電話にも出てくれないし。だから…」
「喧嘩でもされましたか?あ…」
そこまで言うと恭弥が口元に手を持っていく。その目がしまった、といっているようだ。
「え…?」
まだなにも言ってないのに、もう聞いたようなその様子に驚く。
そうだ、この今目の前にいる彼はとても賢く頭が切れる人だったんだことをミキは思い出す。
「あ…、その…、そうでした…。
知ってます。だいたい。碧斗さんの恋愛事情なども。すいません…」
「あ…の…?」
「はい…。お二人のご関係も存じております。だから今の状況も大体の検討は…」
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