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声のする方を見るとそこには、いつからそこにいたのか碧斗の父である社長が眉をひそめて立っていた。そのすぐ後ろに顔を青くした碧斗も立っていた。
さっきまで奥の会議室で打ち合わせをしていて、ちょうど出てきたところ、なにやら騒がしい様子に気付いて、ということなのだろう。
二人の話を聞いていたようだった。
この状況に気まずくてうつむき黙ったまま。
恭弥はあわててミキと碧斗の方を何度もみる。
話はそこから急展開した。
そのまま社長室に呼ばれ、場所を移した。
*
「どう言うことだ…」
無表情で社長である碧斗の父が碧斗と、ミキと、二人に問いかけた。
その低くて太い声は怖いくらい冷静だった。
「ボクも、今知った。子供のこと…」
碧斗の声が少しだけ震えた。
「二人は付き合ってたんだろ?」
なおも冷静に太い声が静かな部屋に響く。
「まあ…」
「まあってなんだ、どういうつもりだ、まさか軽いあそびのつもりだったのに子供が出来たって話か」
「そういう、訳じゃない、けど…」
「じゃあ、なんだ」
「ボクたち、つい最近、別れたんだ」
碧斗は苦しげに言い訳がましく父にそういう告げた。
「あたしは別れたつもりはないよ?」
碧斗の父は困った顔で深いため息を漏らした。
「産むのかね?おろす事は考えてないってことかね?」
「産みます。わたし。産みたい。碧斗の子…」
ミキは強い決意でそう言い放ち、そして二人の反応をただ待つしかなかった。
そのまま三人は黙りこむ。
碧斗の父は二人を責めることはせず、黙って何かを考えている。
碧斗は碧斗で予想もしなかった事態に頭が真っ白になっていた。
無理もない。
やっと自分自身の想いに気付き、大河との暮らしが始まったばかりのところだったのだから。
恭弥は次の予定の事が気になり、しきりに腕時計を気にしている。
まだ、碧斗は話さないといけないことが他にもある。
大河のこと。
父に許してもらえるなんて思ってない。だけどその意思を曲げるつもりなんて端からない。
碧斗は、自分のマンションで大河と自分が一緒に住むことになったことを家族にまだちゃんと話してない。
大河とのその特別な関係についても、もちろんまだ。
実は大河を愛してるだなんて、家族になんて説明しよう…。
唯一、ちゃんと打ち明けて、二人のことを話したのは、まだ菊乃だけ。
それと、なぜか随分昔から二人の思いに気づいてた恭弥と。
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