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マンションに定期的に掃除をしにやって来てた菊乃に、嫌でも知られてしまうのは仕方ないことだった。
なにせ、初っぱなから、二人でイチャイチャしてるところをみられたし、出掛けるから留守だと言っていた休日の前の晩からその事をすっかり忘れて二人で夜更かしをして、朝寝坊をして、二人で裸で抱き合いながら昼近くまでベットで寝ていたところに何も知らずに合鍵をもって入ってきた菊乃にバッチリみられてしまっている。
朝っぱらからお取り込み中じゃなくてそれだけは本当によかった、なんて嫌みのひとつも言われて。
あれ以来、菊乃は来るまえに必ずもう一度連絡を入れるようになったし、合鍵で入るのは連絡をして許可を取って、家が留守の時だけ、とか、来た時は呼び鈴をならして開けてもらってから部屋にはいるようにしたりと、色々と気を遣ってくれるようになった。
食事だって菊乃が作るから、作る量だっていつも二人分頼んでいるし、洗濯だって二人分してもらう。
もう既に公認のなかになってる。
だけど菊乃はそれを人に言いふらすような人じゃない。
家のものにも、息子の恭弥にだって言ってない。
菊乃は昔からそんな人だ。
家族にはまず、大河とのことは、単なる友達として碧斗の仕事場にしているマンションに転がり込んできて入り浸ってるとでも伝えようかと思っていた。
そんな矢先、荷物をマンションに運んできた恭弥に大河の存在を知られ、ついこの間、その事について白状したばかりだった。
恭弥の方はというと、碧斗の側で昼夜行動を共にしていたし、子供の頃から碧斗のことをよく知る立場だったから、碧斗が誰といるとどんな態度を取るのかなんてことはもう、手に取るようにわかるし、既にある程度の事情は把握済みだった。
あからさまなくらいわかりやすい碧斗のそのはっきりした性格と、その好き嫌いが明確なことと、ストレートな物言いだとか、表裏のないところなんかは誰よりも理解しているつもりだ。
だからマンションに向かう足取りが軽やかで鼻歌交じりでご機嫌だったのも知っていたし、そこで待つ大河の事だって昔からよく知っていた。
二人の距離感や視線や、接する様子をみておおよその検討はとっくについていた。
今回、碧斗がミキと別れることになることだって、もうすでに予想していた。
でも、ミキが碧斗の子を身ごもったのは恭弥も想定外だった。
碧斗が動揺を隠せずにいるのを恭弥は同情の眼差しでみていた。
ミキが、昔から碧斗の事が大好きだったのもよく知っていた。
子供の頃から一途に変わらぬ愛を貫いたミキだけど、碧斗にとってはどんな存在なのかなんてことも、碧斗の性格やその態度からしてもだいたいわかっていた…。だから、健気なミキが気の毒で仕方なかった。
それにもかかわらず、こんなことになってしまった…。
今回の事態をどの様に収拾するのか…。
どうすることがベストなのか…。
二人のことをよく知る恭弥でさえも答えを出せずにいる。
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