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空港で出発を待つ間、長椅子に腰かけ、大きなガラス張りの窓の外を眺める。搭乗手続きを終え、ゲート近くの待合室でしばらく時間を潰す僕はさっきここに向かうまでしていたイヤフォンをそっと耳から外した。
その途端、僕の周りに溢れかえるいろんな音が僕のなかに入ってきた。
いろんな音によって僕の心はいつもかき乱される。
窓の外には飛び交う飛行機。
滑走路では機体がゆっくりと方向転換をしながら飛び立つ方向に鼻先を向けて配置につく。
青い空をボーッと眺め飛び立つ瞬間をじっと待つ。それらがまるで今の自分の姿のように思えていた。
今日は就職して初めての大きな商談に向かう。
僕は僕の親が経営する会社に就職した。今日、初めて一泊2日の出張で取引先に出向く。
この旅立ちが、自分の人生の新たな出発点のような気がしている…。
飛び立つその機体に僕の姿がリンクする。
departures
そう書かれた文字を何気なく見た。
departures__
出発ロビー。
旅立ち。新たな門出。標準、慣習からの逸脱、役目を退く…
など、他にもそんな意味があっただろうか…。
大きな空に向かって飛び立とうとしているそれがまるで今の自分の姿のようで、発つ時を待つその自分の姿と重さなって見えている。
見たかった飛行機雲なんか一筋も見えない。
今まさに僕もその大空に向かって飛び立とうとしている。
その美しい尾翼は大きな鳥のようだ。
僕の新たな未来がどうかよいものでありますように…。
飛び立つ僕には、生まれて始めて、戻りたい場所が出来た。帰っていきたい人ができた。
誰かのもとに戻りたいなんて、思う日がくるとは思わなかった。
さっき来たばかりなのに、もう帰ってからのことや、僕の帰りを待つ大河のことばかり考えている。
彼とほんの少し離ればなれになるだけなのに、こんなにも寂しいと感じている。
僕は僕の人生で、初めてその彼を自分から手に入れたいと願った。
そしてやっと手に入れた…。
僕は僕の人生の、新たな境地にたった。僕らは二人で新しい世界の扉を開けた。
いま、僕には心から愛する彼がいる。
*
その空を別の場所から見ている人がもう一人…。
その同じ空はそっちの角度からは違った景色に見えている。
彼女が愛する人は、今、この空の向こうにいる。
愛するその人が居ないその隙に、彼のところに向かうと決めた。
彼から、愛しいその人を返してもらうために…。
頭の中で、今日伝えることを何度も繰り返し呟いてみる。
今日こそは伝えよう。
彼が一人で、私の愛するあの人の帰りを待っているその間に話をつけよう。
愛する彼が出張に行っている留守の間に。あのマンションに帰ってくるその前に…。
あの人に話をつけにいこう。
二人の大切なものを守るために…。
ミキは碧斗が書斎代わりに使っているマンションの下に到着した。
碧斗の部屋をマンションの下から上を見上げる。
空に真っ白い飛行機雲。
今頃、碧斗はこの空の向こうだ。
その窓からどんな景色を見てるんだろう…。
そんなことを思いながらミキは碧斗のいないマンションの部屋のインターフォンを押した。
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