真壁家の跡取りとその嫁

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 あくる日。  碧斗のお婆様の志津子は息子の伸彦からの話を聞いたとたん、驚きのあまり、そのまま床に倒れた。 「かあさん、かあさん大丈夫か?」  伸彦が、碧斗の相手の思いがけない妊娠と、入籍と、そして碧斗の人とは違った恋愛事情について報告していたところだった。  それを聞いたとたんに、古い人間でなかなか事実を受け入れ難かった志津子にとっては衝撃的な事実であり、ショックが大きすぎた。  持病の心臓の病のせいか、高血圧のせいか、脳が衝撃に耐えられなかったのか…。  その場で志津子は倒れた。 「だれか、だれか、だれかいないか?かあさんが倒れた。救急車!」  伸彦の叫ぶ声が家中に響いた。  朝から救急車のサイレンがけたたましく鳴り、家のなかは騒然とした。  結婚だとか子供が出来たどころの話ではなくなった。  そして救急搬送された志津子は、そのまま静かに天国へと旅立っていった。  あわただしく葬儀に向けての準備がなされた。  碧斗の祖父の啓一郎もその事にあわて、孫の碧斗の結婚やその嫁のミキの妊娠の話は陰に追いやられてしまった。  会社からも、昔からの先代との付き合いのあった取引先からも弔問に訪れる多くの人たちの対応に追われ、啓一郎も、伸彦も、美智子も、秘書や使用人たちも、みんな総出で対応し、家はしばらくバタバタとしていた。  弔問に訪れてくれた親友たちを迎え入れた碧斗は、誠也や恒介に、そして、大河にお礼を言い終えたあと、慎重にその重い口を開いた。  ミキとの今後のことについて帰り際に話すことにした。 * 「碧斗、大変だったな。大丈夫か?」 「うん。」 「飯はちゃんと食えてるか?」 「大丈夫だよ。心配してくれてありがと。それよりさ…」 「ん?」 「話さなきゃいけないことがある。」  碧斗はいつになく真面目な、緊張した面持ちでみんなを見る。 「なんだよ、改まって」 「あのさ…」  いつものみんなが目の前にいてくれる。いつもみたいに励ましてくれる。なかなか言い出せずに言葉につまったけど、みんなのあったかい眼差しをみてたら、話さなくちゃって気になった。  きっと大河は嫌な顔をする、そう思っていた。  だけど返ってきた言葉は想像と違った。  大河が悲しんだり自分のことを責めたりしてくれたらいいのに。 「実はさ…ミキが妊娠したんだ… 俺の子…」  天国へと旅たった命と入れ替わるかのように、新たに芽生えた命がやってきた。  碧斗の遺伝子を引き継いだ新しい命。
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