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「まじか。」
大河は一瞬言葉を失った。
そのブルーの瞳に影を落とした。
…ように見えた。
誠也も恒介も言葉が見つからず、大河と碧斗を黙って見守った。
だけど。
それも気のせいだったのか…
「でかしたな!よかったじゃん。」
大河はしんと静まり返る廊下に響き渡るほど大きな声を出した…。
「おい、大河、こんな時にそんな風にしたら不謹慎だぞ」
恒介が騒ぐ大河を鎮めた。
「やべ。ゴメン。碧斗のばあちゃんのご冥福をお祈りします。
神のご加護を。アーメン」
そういって大河は静かに子どもが出来たことを自分の事のように喜んでみせた。
「なんだよ、でかしたってさ。」
小さい声で碧斗は大河に問いただした。
「なんでそんなばかみたいに喜ぶんだよ…」
「だってさ。俺たちの間じゃ、子供なんか出来ないんだから。
よかったじゃん!
碧斗のDNAを引き継いだんだぜ。
こんな顔をしたやつがもう一人この世に誕生するって考えたら、そんなの、尊いに決まってんだろ。」
そう言って碧斗に子供が出来たことを本当に心の底から喜んでいる。
大河にしてみたら、実際本当にそんな思いだった。
碧斗の事は本当に大事だし、ほっとけない存在なのは確かで、世の中の誰よりも大切な存在なのだと最近気づいた。
何より自分が誰よりもそばにいたいと思っている。
だけどどんなに願っても碧斗と夫婦になんかなれないし、二人の子供を作るなんて事は出来ないのだから。
自分にも、碧斗にも、碧斗の子を生みたくたって生めないのだから。
その望みを自分が相手である以上は叶えてやることが出来ないのだから…。
将来、一人息子で会社を背負う立場の碧斗に、その跡取りが出来たと、碧斗の家族が喜んでいたことに、大河は自分の事のように本当に心底ホッとしていた。
だけど、そう思う反面、なぜか自分の胸のなかではなにか虚しさのような侘しさのような、自分だけが取り残されたような、変な感情が渦巻いていた。
その時初めて、碧斗に対してそうしてやることが出来る女として生まれたミキへの嫉妬のような感情が生まれていた。
だから、碧斗とミキがそう言うことをしている二人を想像して、初めてそれを嫌だと感じていた…。
大河には今まで抱いたことのなかった感情だ。
初めて他人を独占したいと心のそこから思い、自分の中から涌き出る嫉妬心を感じた瞬間だった。
今まで自分は自由に生きてきた。複数の女性とも付き合ってきたし、みんな、同じように好きだった。
その中の誰かが他の誰かのものになったとしても、別に気にしなかったし、今、目の前にいる人が今、自分を好きでいてくれたらそれでよかった。
大河はそうやって生きてきた。
今までだったら、みんなが自分を好きでいてくれたらそれでよかった。
だけど、今、自分はこの碧斗が自分だけをみてほしいなんて心のどこかで思っている。今になって。今さら…。
そんな自分に戸惑う大河は、それを子供が出来た碧斗に悟られないように、どうにか必死に取り繕っている…。
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