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あれは確か、大河がうちに転がり込んですぐの頃…。
恭弥に家から僕のマンションまで車で送ってもらったついでに、車に積み込んだ重い荷物を部屋まで運んで貰った。玄関先まで来た恭弥は、部屋の入り口で抱えた荷物をおろした。
その時、恭弥がチラッと不自然にそこにあった派手な靴に視線を落とした。
だけどその日、恭弥はその事には特に触れることなく帰っていった。
そこにあったのは大河の靴。
大河はスポーツメーカーが限定品で出すスニーカーが大好きで、カラフルな物やキラキラしたものを好んでよくはいていた。
僕がそんなのは履かないことくらい、恭弥は知っている。
それからしばらくして。普段あまり僕のプライベートに首を突っ込んでこない恭弥がその日は違った。
週末はいつものようにボクのマンションで過ごしたから、迎えにきてもらって車で会社まで送ってもらう途中。
車を運転しながら恭弥が朝から何度もバックミラー越しにこっちを見てくる。
「寝不足ですか?」
「まあね…」
「夜更かしは構いませんが、仕事に差し障りのないようにしてくださいね。クマ、出来てます。」
「うん、大丈夫だよ。すこぶる元気だから。」
「昨日も飲まれました?お酒…」
「うん、少しだけ。」
「お酒もほどほどに…」
「わかってる、そんなこと。」
「はい…」
「なんだよ、今日は朝から。お説教ばっかだなぁ。」
「最近、マンションにどなたか頻繁に出入りしてますね?」
「あ、ああ…。」
「珍しいですね。碧斗さんは他人を家にいれるの嫌がるのに。」
「他人じゃないよ。親友だから」
「それって、大河さん?ですか…?」
「え?なんで分かったの?」
「ああいう、派手な靴を履くのは大河さんですから。このあいだもありました。あの靴。」
「あぁ…。」
「いつから居るんですか?
しばらくいる予定ですか?」
「ああ、ひと部屋空いてるから貸すことにした。」
「へぇ。あそこを賃貸にでもするんですか?」
「まさかしないよ。大河から金は取らない。あいつの仕事、出張多いし、海外もよくいくからさ。もったいないだろ?使わないのによそで部屋借りて、家賃払うのとか」
「へえ、碧斗さんにそんな他人を思いやる心があったんですね。」
「他人じゃないだろ?あいつは俺の大事な親友だからさ」
「大事な…親友?ですか?」
「ん?」
「大事な人、でしたもんね。随分前から」
「なんだよ、恭弥…」
「いえ。」
「なに?」
「大河さんは碧斗さんの一番大事な…人、でしょ?」
「なんだよ、何が言いたいんだよ」
「大事の意味が少し違う気がして」
「なんだよ。はっきり言えばいいじゃん」
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