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「友達以上の想いがあるのかなって。お互いに。僕にはそう見えてたから」
「相変わらず鋭いね。恭弥にはかなわないよ。」
「やっぱりそうでしたか。」
「もしかして菊乃からなんか聞いた?」
「いえ、母の名誉のためにここは強くいいますけど、母はそういう人間じゃありません。閉ざした口は貝よりも固い」
「だろうね。そんなこと、僕だって分かってる。一応聞いてみただけ。
そういえば、親父の秘書の浅倉とこの間ばったり会ったよ。マンションの近くでさ。なんか知ってる?」
「私の方では特に何も。マンションの所有者は旦那様ですから、いてもおかしくはないですが。」
「そうか。まあ、たまたまかな。まだ親父にもこの事話してないからさ。あそこに大河も住み始めたことも。」
「そのうち全て話す時が来るでしょうね。世に言うカミングアウトってやつですかね?」
「そうだね。親にカミングアウトって、ハードル高いよ。きっと腰抜かす。大事な一人息子の恋愛対象がまさかの男だなんてさ…。」
「ですね…。」
「そうでしょ?僕と大河。僕ってやっぱり、ゲイなのかな?いや、俺たち。違うか、バイ?かな。まあ、そんなのどうでもいいや。そうやって区分する必要なんかないし。僕は僕だし大河は大河だから。でも多分、僕はもう女は抱かないかな…。でもさ、男も、大河じゃない人に抱かれたいなんて別に思わないし、他のやつに全く興味ないけどね。それって、なんて言うのかな…。」
「どうなんでしょうね…。」
そういえば、いまこうして僕の目の前にいる恭弥のこと、僕は昔から大好きだった。
僕の中の特別な大好き…。
それが恋愛対象としての好きだったのか、兄みたいに好きだったのかは未だによくわからないけど…。
子供の時に、恭弥が自分だけのものに出来ないんだってわかった時のあの妙な喪失感や悲しみは今でもよく覚えている。
「恭弥は驚かないんだね。僕が男の人にこんな気持ちになるなんて…。僕なんか、自分でも驚いてるのにさ。」
「なんとなく、そんな気がしてましたから…」
「え?そうなの?うそだろ?」
まさか…。あの頃の僕の恭弥に対するその感情にも、恭弥は気づいてたの?
「大河さんはいつだって碧斗さんに一生懸命だったから。子供の頃の、あの誕生会のあの出来事の時も、メイドたちの噂を僕は子供ながらに耳にしました。大河さんが、泣いている碧斗さんの側でずっと寄り添ってたって。中学の時の香田のトイレ連れ込み事件の騒ぎの時だって。必死に大河さんは碧斗さんを守ってた。」
なんだ、そういうことか…。
やっぱり、さすがにあの頃は気づいてないよね。お互いに子供だったし。
ほっとしてる自分がいると同時になんかちょっと期待した自分がいたのも事実だ。なんだか心の中はかなり複雑だ。
「あれは、僕を大事な友達として守っただけだよ。」
「そう?なんですかね…」
「そうだろ?だって本人同士ですらそんなこと、まだ意識してなかったんだからさ。」
「その時は…、お互いまだそうだったのかもしれませんね…。」
やっぱり、恭弥にはなにも隠し事なんか出来ないんだって、その時改めて思い知った。
恭弥は僕よりも僕の事がわかっている。僕が気づくよりも前から、僕が大河を好きだった事もなんとなく感じ取っていたなんて…。
今もきっと、ボクがなんか言いたいんだって気がついてる。
ボクが週末だけマンションに住むのを最近不満に思ってるんだって、気づいてる。ボクは本当は毎日だって、マンションで暮らしたい。
大河と二人で…。
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