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「いいんですか、それで?」
「僕がそばにいたいんだ。僕が大河の一番になりたいんだ。」
大河の方だって。あんなに複数の女の子たちに囲まれて乱れた生活をしていたのに。
ここへ来てきっぱりとそれらの付き合いを断っている。
常に複数の女性に囲まれて、特定の人を作らずに、気ままに暮らしていた大河が、女の子が呼べばいつも飛んでいっていた大河が、最近は付き合いも悪いし、そう言う類いの場には全く顔を出さなくなった。
常に周りの人すべての人から愛されたがっていたプレーボーイの大河なんか、もうそこにはいなかった。
「だから、ミキとのことはそのうち、ちゃんと終わりにするつもりだよ。」
「ミキさんはそれで納得してるんですか?」
「ミキと僕とはもともとそういう関係だよ。体だけの関係。お互いそのつもりで今まで付き合ってきたし。
だから、"今回の事"だって、ミキの方から"こうすること"をボクに頼んできたんだ。どうしてもって。
だから、多分向こうもそのつもりだよ。」
「そうなんでしょうか?ミキさんは碧斗さんの事、本当に心から慕ってるように見えましたけど…」
「ミキは僕の事よく分かってるから平気だよ。もう随分長いこといっしょにいるからね。」
「そう、すんなり身を引くでしょうか…あんなに碧斗さんにベタぼれなのに」
「そんなわけないだろ。僕らは一度だって心から愛しあったことはないよ。ミキだってボクのこと、体だけの付き合いだってはっきり言ってたし。」
恭弥はなんだか憐れそうな眼差しを碧斗に向けた。
ミキがこの後、もしかしたら大河に会いに行くかもしれない、なんてことは恭弥の口から碧斗に言いたくても言えない。
恭弥は黙って碧斗の話に耳を傾ける。
「僕は、やっと、本気で愛する人を見つけたんだ…大河を本気で好きなんだって気づいた。」
「そうですか…」
「実はさ、昔からそんな気がしてた。だけど多分、その気持ちに向き合わないようにしてきたんだと思う。お互いにね。
やだなあ。こんなこと、人に話すのは初めてだよ。
いや、違うか。恒介には話した、かも。」
「じゃあ、ミキさんにはわかって貰えるようにちゃんと話をしなくてはいけませんね。」
「随分気にかけるんだね。ミキの事」
「そりゃ、あれだけ昔から何度も見かけしてましたから。いつも挨拶くらいはしますし。」
「ふーん」
場内に、搭乗を知らせるアナウンスが響く。
「そろそろ出発のお時間です」
「うん、行こうか。」
二人は静かに立ち上がりゲートに向かった。
*
恭弥が何を言いたいのかなんて、わかってる。
『今回の事…』
ボクと大河は愛し合ってる。
この先一緒に人生を共にしていくと決めた。だから、その幸せがずっと続くもんだと思ってた。
その矢先…。
歯車が狂いだした…。
運命のいたずらか…。
僕の遺伝子を引き継いだ新しい命が今、愛することのなかった別の人の腹に宿している…。
体だけの関係だったはずのミキのお腹に。ボクとの間に出来た新しい命…。
おろしてほしいなんて、さすがに言えなかった。でもボクは…。
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