8人が本棚に入れています
本棚に追加
「おう、華怜! お前最近何やってんの?」
廊下ですれ違った陸翔に声を掛けられた。
「え? 何って、別に……特に変わりなくやってるけど」
「ふーん……」
「何で?」
陸翔が何を言いたいのかは何となく分かっていたが、華怜はしらを切った。
「何か面白い映画とかやってねえの?」
華怜は思わず陸翔を凝視していた。
「何だよ」
「え。べ、別に……」
陸翔からそんな質問をされたのは初めてだった。聞くということは、誘っているということなのだろう。
陸翔は華怜の誘いを二回に一回必ず断わるのがお約束だった。そして後日「予定がなくなったから」とか「暇だから」という理由で結局華怜に付き合う、というのがいつもの流れだった。華怜もそれを分かっていたから、断られても気にはしなかった。
本当に嫌なら付き合ってはくれないだろう、と思っていたのは、ただの自惚れではなかったのかもしれない。
最近陸翔がやけに優しい。
「うーん……。陸翔が好きそうなアクション映画はやってないんじゃないかなぁ」
「じゃあ、華怜が好きなやつは?」
「え?」
「恋愛ものとか」
「えっ!? でも、陸翔そんなの見ないでしょ?」
「たまには付き合ってやってもいいかなぁと思って……」
華怜は困惑していた。
恋人でもない陸翔に断りを入れるのもおかしいと思った華怜は、特に何も伝えないままでいたのだが、今までは恋人同士のように週一ペースでしていたデートを、ここ一ヶ月程していなかった。さすがの陸翔も何か感付くはずだろうとは思っていたが、それは華怜が陸翔の気を引くために意図的にやったことではなかった。
徐に後退りした華怜に、陸翔が詰め寄る。
逃げたい。
物凄く逃げたくなる。
「おい! 何だよ! 何で逃げんだよ!」
「別に何でもないから!」
「ちょっ、待てよ、華怜!」
陸翔が早足で華怜を追う。
追いかけられれば追いかけられる程、逃げたくなる。
華怜は全力で廊下を駆け抜けた。
最初のコメントを投稿しよう!