フィルター越しに好きだった

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「いってきま〜す」  春は眠い。  いくらでも寝ていられる。  玄関のドアを開けようとしたら、逆に勢いよく開かれたドアから飛び込んでくるのは子リス。  いや、リスじゃないな……テディベアか。  テディベアが小さな口を開く。 「おはよう、真織(まおり)。朝ごはん食べた?」  軽く息を切らしながら、重そうな鞄を玄関にドサリと置く。 「おはよう、奈々(なな)。もちろん食べる時間なんてないよ」 「そうだと思って、小さいおむすび持ってきたよ。学校でこっそり食べよ」  どれだけ詰め込んだらそんなパンパンの鞄になるのか?誇らしげに鞄をバンバン叩く奈々は高校生になっても無邪気だ。  幼稚園からずっと一緒の鈴代奈々(すずしろなな)は、友人が少ない私の唯一の親友であり、幼なじみだ。  奈々は私に、眩しいくらいのキラキラを与えてくれる。いつだって、光の道に連れ出してくれる。  奈々と一緒に歩く道は、高校でもきっと輝いていくだろう。 「真織~、久しぶりに手を繋いで登校しようよ」 「いいよ、ほら!」  私が差し出したのは左腕。 「そうじゃなくて!腕を組むんじゃなくて、手!手を繋ぐのよ」  必死に手、手、と主張する奈々が笑えて、そしてやっぱり可愛かった。  奈々には朝がよく似合う。  私は?  私は奈々にどんなふうに見られているのだろう。
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