フィルター越しに好きだった

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「奈々の付き人で入部したから、私には期待しないで。一行だって無理」  高坂は私の隣に立つと、腕組みで見下ろしてくる。やるのか?  立ち上がろうとした私の頭をグゥゥッと押さえると、顔を近づけて不敵に言った。 「それでも書いてもらう。俺が教える。卒業までに必ずな、付き人さん」  それきり、パソコンで小説を書き始めた高坂の集中力はいつにもまして凄くて、私に構うことはなかった。  開け放たれた図書室のドアや窓から、時折聞こえる忍び笑いと足音。盗み見する生徒達を充分満足させているのだろうな、この男は。  それをわかって生きているのかな?  ふと、中学3年の卒業式の日が思い出された。担任の最後の言葉はまだ覚えている。 ──センセイ、私はまだ自分の道を歩いていないよ……たぶん。  高校生活があまりに順調だったから、私は油断していたんだ。奈々と私と高校生活、このままずっと楽しく過ごせると思っていた。  そう、思いたかったんだ……。 「高坂君の事、好きになったみたい……」  高2の秋、奈々からそっと打ち明けられた時、私は──ドラマの世界の表現だとばかり思っていた重い一撃を喰らった。  足元が不確かで、奈々の声が耳に入らない。  どうやって家にたどり着いたのか、私は自分の部屋の隅で、膝を抱えて震えていた。
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