祖父の本棚

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 みんなが意図的に友人の話をしなくなってから一週間、流石に我慢できなくなった僕は周囲の制止を振り切り、一人でアパートへと向かった。  友人の住むアパートに到着したが、玄関をノックしても反応は無かった。どうしたものかと思い、試しに玄関のドアノブを捻ってみると、ドアは甲高い音を鳴らしながらひとりでに開いた。  そして、僕はその異様な光景に息を呑んだ。  部屋の中央には、以前運び入れた本棚が置かれており、それを取り囲むように大量の本が散らばっていた。  それだけしかなかった。電子レンジや掃除機、クローゼット、衣類から食器に至るまでの全てが無かった。空っぽの部屋の空白を埋めるように乱雑に散らかされた本で床は見えず、部屋の奥には天井にまで届きそうな程の本の山が築かれている。 「おー、久しぶりだなー」  背後からの声に振り向くと、そこには両手にそれぞれ大きな紙袋を持った友人がこちらに向かって歩いて来る。  その姿を見て、友人たちの言っていた事を理解した。  何日も風呂に入っていないのか、髪の毛はべったりと額に貼り付き、着ているシャツには黄色いシミのようなものがいくつもできている。酷いクマとギラギラとした目つきは、まるで正気を失っているようだった。
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