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「悪い、ちょっと通してー」
言葉を失って玄関で立ち尽くす僕を押し退けるようにして友人は室内に入っていく。友人から漂う不快な異臭で胃液がせり上がって来るのを感じた。
友人は床に散らばった本を踏みつけながら部屋の中へと進んで行くと、本棚の前で立ち止まった後、紙袋を一つ頭上に掲げ、その中身を本棚にぶちまけた。大量の古本だった。空になった紙袋を無造作に放り投げると、もう一つも同じように頭上に掲げた。本をばら撒き終わったかと思うと、友人はいきなり、何かを探すように足元の本をかき分け始めた。
「違う、駄目だ、駄目なんだよ……」
友人が何をしているのかは分からないが、完全に正気を失っている事だけは分かった。
「あ、そうだ」
友人はピタリと動きを止め、こちらに振り返る。
「なぁ、お前も一緒に探して…いや、駄目だ、違う、違うんだよ」
「お前、何言ってん……」
「だから違うんだって探しちゃ駄目なんだよ探したらさぁ!!」
狂乱したような怒声に心臓が跳ね上がる。
友人は尚も本の海をかき分けながら続けた。
「あの本は探したら駄目なんだけどさぁ、探さずにはいられないんだよ。見つけたら絶対ヤバいって分かってんのにさぁ……じいちゃんみたいになりたくねぇよ……」
その表情は助けを求める子供のようで、目には涙が浮かんでいる。
「なぁ、手伝ってくれよ……」
僕はその場から逃げ出してしまった。
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