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雨天の時だけ現われる謎のヒーロー……。
犯罪者たちは憎しみを込めて、ナメクジを意味するslugスラグと謎の男を呼んだ。
またはナメクジ野郎だ。もっとも警察ではスラグから、若干、イメージがいいスネイルにネーミングが変更されている。つまりカタツムリだ。
彼女の仕事はナメクジ野郎のサポート役だ。
犯罪者はみんなスラグに恐れをなし、今では「しのぎをするときは晴れた日にやれ」が合言葉になっている。
頭脳も明晰で、どんな知能犯も例外なく逮捕されており、彼らには倦厭ムードが漂っていた。
彼は雨の日でしか活躍できない。《紫外線が射さない雨の時でなければ、本来の力が出せない》というのがもっぱらの噂だ。
その能力はすさまじく、腕力は象並み、走る速さは130キロを超えるチーターと同じ、スタミナも尽きる事がなく、湿気があればバテない。
彼女は駅前の公園のベンチに腰かけて、ひたすら雨を待った。
と、彼女の頬に雨粒が落ちた。
やれやれと、彼女は首を左右に揺らした。
今日は曇りで雨が降らないのではないかと心配していたのだ。
その瞬間、背後から、しわがれた声が聞こえた。
「また奴か?」
彼とコンタクトを取りたいときは東京駅の伝言板にチョークで渦巻きを書くのが定番になっている。スラグは黒い雨合羽に膝まであるゴムの長靴を履き、手にはゴム製の手袋をしていた。
フードを被り、黒いマスクとサングラスをしているので素顔がわからない。
こんな姿をしているのは犯罪者に正体を隠す意味もあるだろうが、噂どおり《おそらく紫外線予防のため》と、いうことが想像できた。
悪党たちの情報網では、スラグの正体は判明していた。彼の正体は大学の池又総一郎(いけまたそういちろう)准教授で、教鞭をとるかたわら、雨の日だけの限定で、警察の依頼に応じて協力している。報酬は政府から身柄の安全と研究費の確保――もちろん国家機密に該当する研究で、来るべき海洋開拓時代を見すえた肉体強化薬の完成だが、今のところ、塩分が体内の電解質を邪魔してしまうので、エネルギーに変換するのは真水でしか成功できていない。塩気で内部機関が酸化してしまうからだ。
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