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内心でまさかこんなガキっぽいまだ学生の娘っこに、とその場の誰ひとりまるで一片たりとも考えてなかった。って証拠はないが、少なくともそれをわたしの前で態度に出さずにはいてくれたし。
本当にこんな息子でいいの?愛想はないし大学での研究以外何にも興味も示さないし冗談のひとつもろくに言わない遊び心はない、一緒にいて面白味も何もないんじゃ…。と心の底から心配してるのを隠しもしないお母様と、大学卒業して社会に出てみたらもっといい男がいくらでもいるってなるんじゃないかな。後悔しても何だし、も一度ゆっくり考え直してもいいんだよ?とからかい顔でわたしにちょっかいをかけてくる気さくなお姉さん。
それからまあまあ、二人で決めたことだから。とそれを諌める人の良さそうな義理のお兄さんとさすがに戸惑いを隠しきれないお父さん。そして元気にはしゃぐ小さい甥と姪、ってご家族の面々に囲まれて賑やかに顔合わせ会食は始まった。
お母さんとお姉さんが、もちろんお世辞だろうけどわたしを見ては可愛い可愛いと連呼してくれるので、影響された姪っ子ちゃんがゆずきちゃんかわいい。と一緒になって口真似して言ってくれる始末。彼女より二歳下の甥っ子くんは難しいことはまだわからないようで、その場に居合わせた見知らぬ大人であるわたしの方をただぽかんとなって眺めていた。
一方でわたしの母の方はというと、予想通りさすがにもう少し手強かった。
「…結婚するなって言ってるわけじゃないのよ、もちろん。相手だってこの人だと柚季が真剣に心に決めた人がいるなら、その選択に横から無碍に口を挟む気は。わたしの方だってないし」
少し居心地悪そうに隣で肩をすぼめてるパートナーをよそに、母は硬い表情を浮かべてテーブルの上で手を組んでわたしたちを見据えた。
「けど、何も。今すぐって急ぐほどのことでもないじゃない?この子はまだ学生なんですし。卒業まで待てないってほどのことじゃないでしょう。しかも、届を出すのはさすがに親に相談してからでもいいと思わない?事後報告になるくらい、急がなきゃならなかった理由って。一体何?」
内心、父の方にだけ事前に話を通して(当日の朝ぎりぎりだけど)保証人として署名までもらってるのが納得いかないのかな、とちらと思う。百パーセントそれだけではないだろうが、ゼロでもなさそう。何てったって負けず嫌いな性格だからなぁ、この人。
「…そこは、あの。実はいろいろと。理由があって…」
俯きがちにごもごもと煮え切らない弁解をするわたし。と、蒲生先生がつと腰を上げて母の方に顔を向け、ちょっと二人でお話できますか?と提案した。
わたしと母のパートナー、諏訪さんというその人はダイニングテーブルに二人で残されて顔を見合わせ、何となく笑いを浮かべた。
「…ごめんね、柚季ちゃん。冬実さんも、言葉はちょっと厳しく感じられるかもだけど。君のことを本気で心配してるからこそなんだよ」
「それはもちろん。こっちの方が筋が通ってないことは承知だから…。でも、このタイミングでしかなかったんです。説明が難しいんですけど、いろいろ事情があって」
それに、傍から見たら突然で考えなしの行動に思えるかもだけど。絶対に信頼できる、一生を共にできる特別な人であるのは間違いないから。そこはお母さんにも信じてほしいの、と熱弁するわたしにうんうんと頷いて全面的に素直に話を聞いてくれるいい人。
こういう性格だから母みたいなちょっと強火な性格の女の人とも長いこと上手く続いてるんだろうなぁ。ま、父と違ってもう少し、しっかりしてて仕事もできて頼り甲斐もあるところが前回の反省を活かした選択って言えるけど。
と、実の娘ながら父に対して非情な感想(申し訳ない)をこっそり抱いてると。やがて二人が話を済ませて再びリビングへと戻ってきた。母の険しい表情はそのままだけど、わたしに対して短くあなたも大変だったのね。とため息混じりに呟いてからさっきよりやや和らいだ声で告げる。
「…いろいろと、実の親だからこそ当時あなたが言いにくいことがあったのは仕方ないけど。それでもやっぱり何もかも、ちゃんと話してくれればよかったと思うわ。知った方が辛かったとしても…。一人で抱えて耐えようだなんて、本当。馬鹿な子」
ちょっと涙ぐんでるじゃん。先生、一体何話したんだ。
そこからは空気が変わって、式はどうするの?と問う母に先生が、彼女の卒業を機にどうするかと考えてます。と答えたり。
「別に、在学中でもいいじゃない。堂々としてりゃいいのよ、ちゃんと正式に夫婦になったんだし。先送りしてたらそのうちすぐ赤ちゃんできたりして、タイミング逃すよ。下手すると出産終わってからの子連れ挙式になりかねないんだから」
とか、やけに前向きに勧めてきたりしていた。ずいぶんな態度の軟化だけど、一体何を話したんだろ、二人で。
「え、そのまんまだよ。オカルトというか、スーパーナチュラルな部分は無理だから全部取っ払ったし。村全体の慣習についても、そんなこと口にしたらこっちの頭がおかしいと疑われかねないからそれは省略したけど、あとは基本実際にあったことを。…村で絶対的な権力を持つ当主の双子に見込まれて、自分たち二人に共有される嫁になれと強制されたけど。それがどうしても嫌であのとき逃げたんだ、って話」
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