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などと雑談してる間にワンボックスカーはまだ明けやらぬ朝靄を縫って、静かに村の敷地内の山の奥へと到着した。
いざ水に潜るとなると、曽根さんはいつものチャラさが嘘みたいに落ち着いて実力を発揮した。
「何しろもう初冬に入りかけてる季節だし。早朝とはいえ薄暗くて、想像以上にめちゃくちゃ寒かった。だけどあいつは全く動じずに手慣れた様子でしっかり準備してたな。道具を持って一緒に山に入るくらいで、特に俺たち手助けもできなかったんだけど。ダイビングのこと何もわからないしさ…」
ただ、蒲生先生から渡された印をつけた地図や写真を見ながら。多分この辺り、とかここで潜れば水底に祠があるはず。とか位置の指示をするくらいであとは周囲に警戒を怠らずただ見守るだけだったという。
曽根さんは写真でポジションを確認して、なるほど。と頷くと物怖じせずにさっと潜っていった。それからしばし後に一回上がってきて、ちっちゃい祠が確かにあったよ。と報告してきた。
「何て言うんだろ、岸の壁?水面下の。そこに横穴が掘ってあってさ。そん中にちょこんと納められてる。これどうすんの、破壊しろって?道具とかないと。さすがに素手じゃ壊せねー」
「いや祠ごと壊さなくていいよ。中から御神体を取り出してそのまま持って来いって言ってたはず。多分普通に扉開くって話だったぞ」
沖さんが慌て気味に説明すると、曽根さんはいつものチャラさが嘘みたいにクールに肩をすくめ、呟いてから再び水に潜っていった。
「そんなん見ないでもわかるのかよ。…霊感持ち、半端ねーな」
さっきより少し長い時間が経って、何か小さな物体を手にした彼が再び水面に姿を現したという。
「…祠はそのままだぜ。一応閉じたから、一見何も変わってないように見えると思うけど」
「ありがたい。それでいいよ、曽根。上出来だ」
ほっとして皆で彼をめちゃめちゃ褒めそやした。それから急いで協力して道具を片付け、踏み荒らされた跡が極力残らないよう大量の落ち葉でその周辺を慎重に均してから湖のほとりを立ち去ったとのこと。
その後彼らは一旦ホテルに戻り(そのときにはわたしと蒲生先生は既に村に向けて出発していた)、曽根さんがシャワーを浴びてさっぱりしている間に部屋を片付けて引き払う準備をし、彼にそこでひと休みしてもらってからチェックアウトして大学を目指した。わたしたちとは以後別行動だったから、その日は顔を合わせずに終わったが。
「結局、わたしは御神体見れなかったなぁ。どんなものだったの?山川さんは見たんでしょ、実物を?」
ふと思い至り尋ねた。単純に好奇心からの質問だけど。
先生が言うには、祠から出してしまえば効力が自動的にスイッチオフされるので、それに触れたら呪われるとかそういうおどろおどろしい影響はないよ。ただの空っぽの木彫りの像だよ、って話だったような。
呪文を唱えないと取り出せないとかいうこともないので、その場に先生が立ち会う必要もなかった。ただそのまま布にでも包んで大学まで持ち帰ってくれ、あとは俺が適切に処置するから。と言ってたのを聞いたので、わたしもその像を後で見る機会があるかと思ってたのだが。気づくと処分はとっくに終わっていた。
山川さんはうーん、と軽く唸って何かを思い出すように視線を中空に泳がせて答える。
「別に、どうということもなかったなぁ。こう、このくらいのサイズでさ(と、手で20㎝くらいの大きさを示す)。木製の仏像ぽい感じだったよ。…いやあれは観音像か?割とすらっと細身の、立像だったなぁ。細工はちょっと粗めで。いかにも素人の手彫り、って印象」
触ったら祟られるとかはないよ、と先生から聞いてはいたけど。何十年とか下手したら百年単位で水中に祀られてたものだと思うとそれだけでもう気が引けて、あまりまじまじ観察もせずに早々に水気を切ってタオルで包んで車に放り込み、それっきり特に顧みもせずにこっちの県まで持ち帰ったのだという。
「そんなに長い期間水の中にあったのに。腐食したりはしなかったんですかね」
わたしが興味津々で尋ねると、彼は深くは考えてなかった。みたいな顔つきで首を傾げた。
「さあ?言われたらそうだけど。確かに黒ずんでていかにも年代物って感じだったけど、見たとこぐずぐずに腐ったりはしてなかったな。水に強い材質の木を使ったりとか、そういう気配りはされてたのかも。古そうは古そうだったよ。数百年そこにあった、って言われたら信じるくらい。長いこと人の手で触れられてないって風には見えたな」
確かに。それじゃ、いくら大丈夫って言葉で保証されても。本能的に気味悪く感じるのは仕方ない気がする。
翌日大学の研究室に顔を出した先生にそれを手渡して、山川さんたちの御神体との関わりはそれっきりだという。
あとで、あれどうなりました?と沖さんが先生に尋ねたらしいが、そのときにはもう既に処分は終わってた。
何でもこっちで手近の神社に持ち込んで、お経をあげて供養してもらったあと危険のない状態で燃やしてお焚き上げしたとのこと。だからもう既にこの世に存在してないらしい。特に写真にも残してないし。
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