19. 裏切り

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 答えようがなかった。何を言われるのかと恐れながら聞くしかなかった。 「ふたりしか知りえない、特別な関係なんだろうな、ってずっと思ってた。純也の依存ぶりみていたらわかる。何でも『どうしよう』って灯真君を頼って、甘えて。灯真君はそれを全部許すよね。守ってくれて、フォローしてくれて。愛情の大きさが、ただの親友とかそういうレベルじゃない。溺愛している恋人、ってかんじ」  グサリと腹を刺されたような気がした。言葉がなかった。YesもNoも言えなかった。聞き返す勇気もなかった。詩織の分析にただ狼狽(うろた)えた。 「私もね、純也のすべてが好きなの。ダメなところも、未熟なところも、屈折しているところも、何もかも。その気持ちは誰にも負けないと思っている。だから……許してきた」  詩織にまっすぐ見つめられた。知っているのよ、という目だった。 「灯真君が、純也と私のことを受け入れてくれたように、私は純也と灯真君のこと、受け入れてきた」  絶句した。純也が話すはずはなかった。何をもって詩織は察したのだろうか。灯真は必死に動揺を隠して、可能な限りの無表情で詩織の強い視線に応じた。 「純也は誰でも恋愛対象にできるバイセクシャルじゃないでしょ。純也にとって、どのくらい灯真君が特別大切な人なのか、は理解しているつもり。だから、仕方がないと思って来た」 「……ごめん。何の話だか」と灯真が言いかけると、詩織は低い声で「とぼけないで」と制した。 「ずっと、わかっていた。ふたりを見ていれば、私にはわかった。でも、灯真君は、私たち家族を壊そうなんて思っていない。純也の幸せを、私達の幸せを優先してくれるほど大きな愛で純也を愛してくれているから。でも、女はダメ。女は私から、私達から純也を奪おうとするわ」 「純也は、しーちゃんが妊娠した時に、嬉しかったと言っていたよ。自分の家族ができるんだ、しーちゃんと子どもも守りたいんだって言った。純也が自分から追いかけた女の人は、しーちゃんだけのはずだ。違うの?」  詩織は純也も「そういってくれた」と言って眉尻を下げた。次々と涙がこぼれた。 「私が悪いの? 私が育児でいっぱい、いっぱいで、純也を構ってあげなかったから? やっと、余裕が生まれてきたから、って思ったら、今度は私が放置されている。純也のために入籍を待ったまま暮らしているけど、私はもう結婚しているつもりよ。それなのに……」
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