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「おじいちゃまっ、紅子が頑張って池に落ちた鞠を取ったのに、功太が横取りしたのよっ!」
そういって大きな口をあけながら泣きじゃくる。公卿にとってこの孫たちは目に入れても痛くないほど可愛い存在だ。つい、そんな姿をみても目じりが下がってしまう。
「よしよし、わかった。功太はどこだ」
そういって紅子の頭を撫でた。すると、裏庭から功太が鞠を片手に走ってくる。
「おじいちゃま、呼んだ?」
横取りした功太はポカンとしている。公卿は少し目に力を入れ功太に訊ねた。
「池から拾ったのは紅子だろう。横取りはしてはダメだぞ」
功太はビクッとなって、つい嘘を口走る。
「ち、違うよ。僕が池に入って取って来たんだもん」
ぷいっとそっぽを向く功太。公卿は二人の衣装を見比べた。
「嘘をつくな。紅子の服はずぶぬれだが、功太の服は一滴も濡れてないじゃなか」
本当だ、といわんばかりの表情で功太は自分と紅子の服を交互に見た。
「……嘘ついて、ごめんなさい」
そういって功太は素直に紅子に鞠を返した。
「じゃあな、功太にはブリキの電車をあげよう。ほらこれで遊びなさい」
孫用にいつでも遊べるグッツを用意している。その中から一つを渡した。
「はーい。おじいちゃま、ありがとう」
功太と紅子は笑顔になって庭に駆け出していった。
そんな二人の様子を公卿を目を細めて眺めた。ふと、この光景からあることを思い出した。
一人はずぶぬれ、一人は乾いたまま。
そういえばあの日、愛子は全身ずぶぬれで公卿に助けを求めにきた。正清の側にいた珠代の服は一切濡れてなどいなかった。
はて、あれはどういうことだったのか。
まだ公卿の中ではつながらないが、事実の綻びに気が付き始めていた。
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